認められた同棲生活

 翌朝。

 起き上がると俺は寝落ちしていたことに気づいた。


 そっか……疲れて眠ってしまっていたか。


 昨日はいろいろあった気がする。

 今日は平和だといいのだが。



 学生服に着替え、俺は朝の仕度を済ませていく。リビングへ向かえば朝食も出来上がっていた。母さんがいつものように作ってくれていたのだ。


 トーストを頬張り、鈍った脳を回復させていく。

 締めのコーヒーを堪能し俺は席を立つ。



「じゃ、行ってくる」

「気を付けてね、純」



 親父の姿が見当たらないが、まあいい。

 どうせ母さんの制裁による後遺症が続いているのだろう。しばらくは起きてこないな。

 特に気にせず、俺は玄関へ向かった。


 靴を履き、扉を開けて外へ――。


 だが、そこで事態は急変した。



「おはよう、有馬くん。ちょうど良い所に来たようだ」



 そこには何故か関さんのお父さんが立っていた。ハイブランドのスーツを着て、びっしり決めている。……な、なぜココに!?



「お、おはようございます。……えっと……」

「驚かせてすまない。ちょっと話があってね」

「話、ですか」

「そうだ。大切な話だ」


 公園に行かないかと言われ、俺はついて行くことにした。関さんのお父さんを無碍にできるわけもない。俺は黙ってついていく。


 鬼塚公園に入り、ベンチに座る。


 いったい、なにを話す気だ……?


 身構えていると、関さんのお父さんは深い溜息を吐いた。



「あ、あの……?」

「こんな朝早くにすまない。どうしても話さなければならないことがあるんだ」


「な……なんでしょう」


「実は、咲良のことなんだが」

「関さんに何かあったんです?」


「昨日は助かったよ。ヘンタイのストーカーから咲良を守ってくれたそうだね」



 いきなり感謝され、俺はビックリした。

 そうか、魚谷の件で話があったのか。


 ようやく理解が追い付いた。



「当然のことをしたまでです」

「立派だよ、君は。娘を守ってくれたのだからね」


「そんなことは……」

「謙遜することはない。これでも私は、有馬くん。君を認めているんだよ。これからも、娘を守ってくれないか」



 まさか、そんな風に言ってくれるとは思わなかった。なんていうか、嬉しい。


 俺は関さんのこと好きだし、もっともっと彼女のことが知りたいと思ってる。許嫁ではなく、本当の恋人になれるようにがんばりたい。そして、いずれは結婚も――。


「分かりました。関さんは任せてください。俺、絶対に幸せにしてみせますから」

「……ぐっ」


 関さんのお父さんは、眉間を押さえ涙を堪えているようだった。な、泣いた!?



「だ、大丈夫です?」

「ぐおぉぉぉん……! 有馬くん、君はなんていい子なんだ。君はもう私の息子でもある。そうだ、純くんと呼ばせてくれ!」


「わ、分かりました。こちらこそお義父とうさんと呼ばせてください」


「無論だ。好きに呼んでくれたまえ。それに、君たちの住まいも手配しよう」

「す、住まい!?」


 それってつまり、俺と関さんの愛の巣……!

 同棲生活の為のアパートだとかマンションなどの賃貸ってこと!?


 ぶっとんだ提案に震えていると、お義父さんは笑った。


「聞いていると思うが、私は経営者でね。自慢ではないが金持ちなんだ。娘の幸せの為なら、マンションくらい提供してあげようじゃないか!!」


「ほ、本当にいいんです?」


「ああ、いいとも。あとは咲良がうなずくかどうかだ。君に掛かっている」

「分かりました。関さんに話してみますね」

「素晴らしい返事だ。……ふぅ、腹を割って話せて良かった。おかげで不安が吹き飛んだよ。純くん、私はそろそろ行く。今日も咲良を頼むよ」


 席を立つお義父さん。

 ニッと白い歯を見せ、さわやかに去っていった。


 ……良い人で良かったなぁ。


 お義父さんから頼まれた以上、俺は関さんと同棲生活をしたい。なんとか交渉しないと……!

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