幸せの味しかしない
全長三メートルを超える深海魚『リュウグウノツカイ』。その標本が出迎えてくれた。 なんて長い胴体をしているんだ。いったいどうしてこんな進化を遂げてしまったんだろう。深海魚とは実に不思議な存在だ。
「大きいね、深海にはこんな大きな生物がいるんだね」
「凄いよなぁ。――って、すぐ近くに期間限定でダイオウイカの生物標本も展示しているみたいだぞ」
「え、ダイオウイカって、あのたまにニュースになってる大きなイカだよね」
「そそ。リュウグウノツカイと同じで深海に
少し移動すると、そこには四メートルはあるダイオウイカが展示されていた。これまたデカいな。何食分のイカ焼きができるんだろう。
「有馬くん、今、このダイオウイカを見て何食分できるかなって思った?」
「な、なぜ分かった。関さんは、テレパシーでも使えるのか!?」
「ふふっ、ナイショ」
きっと俺の表情を読み取ったのだろうけど、考えていることがバレるとは……ちょっと恥ずかしくなった。
その後も水槽の中にいる深海魚を見て楽しんでいく。
ミドリフサアンコウ、タカアシガニ、ヌタウナギ、ノコギリザメなどのサメ類多数、エビやナマコなど様々な生物を見ることができた。
深海には、奇妙な生物がたくさんいるんだな。
「深海生物は面白い形してるよね」
「そうだね。ほんと神秘的」
関さんも楽しんでいるようで水槽に釘付けだった。よかった、興味を持って貰えて。
「関さん、あっちにシーラカンスの標本もある。本物らしいよ」
「おぉー。生きた化石って言われている魚だよね!」
足早に向かう関さん。俺もこのシーラカンスには目がない。
三億五千年前から変わらない姿らしい。まさに生きた化石。そのフォルムもいかにも古代魚っぽいし、カッコイイ。
「神秘の塊だな。これが絶滅せずに生き残っていたなんてね」
「進化の過程で陸へ上がったのと深海へ戻ったのがいるのかもね」
陸へ上がったものが恐竜とかになったのかな。本当、不思議しかない。
そんなこんなで深海水族館を回り切った。
さすがに疲れたのでいったん外へ出てベンチに腰掛けた。
「楽しかったなぁ」
「うん、すっごく見ごたえあったよ。深海生物って、たくさんの種類がいるんだね。勉強になったし、また見たいって思えた」
「それは良かった。関さん、また機会があったら来よう」
「もちろんだよ。でも、他もいろいろ回ってみたいかな~」
「恐竜とか?」
「うん、いいかもね。博物館も」
関さんは乗り気だ。また次回を検討しておこう。
自販機でコーヒーを買い、関さんの分も渡した。
「はい、どうぞ」
「ありがとう、有馬くん。わたし、このコーヒー好きなんだ」
「W缶コーヒー、甘くて美味しいよね。疲れた時に丁度良いんだ」
「うんうん、分かる」
蓋を開け、俺はごくごくと飲む。……うめぇ、乾いた喉が潤っていく。この甘さで脳もすっきり回復。
気分がよくなっていると、関さんが俺の頬に缶コーヒーを当ててきた。ひんやりして冷たいっ!
「わっ……関さん!?」
「ごめんごめん。有馬くんの飲みかけくれる? わたしのと交換」
「えっ、でも……関さんのも飲みかけ……」
「気にしない気にしない」
同じ味のコーヒーだから交換する意味がないのだが……あ、そうか! か、間接キスだ……。俺はようやく関さんの意図を理解した。
強制的に交換された缶コーヒー。
つい三秒前に関さんが口をつけていたものだ。
……ドキドキしてきた。やばい、やばい。顔が熱すぎるッ。
「……」
「いただきます」
俺よりも先に関さんが缶コーヒーに口をつけていた。…………迷いがなかったな。そして、嬉しい。最高だ。
嫌がる素振りも、ためらいもなく関さんは俺が口をつけていた缶コーヒーを飲んでくれていた。
なら俺も関さんのコーヒーをありがたくいただこう。
口をつけ、じっくりと味わう。
……すげぇ、美味いぞ。
幸せの味しかしない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます