深海水族館デート

 カレーを堪能たんのうし、満腹になったところでお店を出ようとしたのだが――。


「ちょっと待ちなさいよ!」

「……姉ちゃん。なんだよ」

「なんだよ、じゃないわよ。なにがあったのか教えなさい」


 ヘビに睨まれたカエルとは、まさにこのことだろうか。俺はそんな感じで、ただ震えることしかできなかった。姉ちゃん、顔が阿修羅マジすぎるって。


 しかし、事情を説明するのも面倒なのだが……。しないといつまでも問い詰められるだろう。仕方ない。



「かくかくしかじか」

「なるほど……担任の魚谷って先生が咲良ちゃんにストーカー行為を……最低のクズ野郎ね!」



 今ので分かったのかよ!!

 超能力者かな……?


 まあいいや、これで伝わったのなら姉ちゃんの追及ももうないだろう。


「じゃ、今度こそ俺たちは行く」

「くぅ、私の目の前でイチャイチャしやがって~! 超新星爆発スーパーノヴァしてしまえ~!!」



 うあぁぁんと泣き叫ぶ姉ちゃんは、GOGOカレーへ戻っていった。なんだよ、スーパーノヴァって。まあいいや、今度、なにかおごってやるか……。



「さて、どうしよっか。有馬くん、どこかいい場所ある?」



 関さんが俺に選択を委ねてきた。

 そうだな、せっかくの二人きりなのだから良い場所に連れていってやりたい。


 う~ん、そうだな……。


 ああ、そうだ。

 この近くに『深海水族館』があるんだ。深海生物が見れると有名なんだよな。度々話題になるダイオウグソクムシとか奇妙な生物たちが見れて楽しめるはず。



「深海水族館でどうかな?」

「いいね、水族館! しかも深海生物なんだ、それは新鮮だね。うん、行こう」



 良かった、関さんは行ったことないらしい。それなら丁度良いな。

 俺は宇宙や深海、どちらも好きでよく博物館だとか水族館へ足を運んでいた。というか、親父に連れられていた。だから少しは詳しいつもりだ。


 GOGOカレーから徒歩ニ十分以上となかなか遠い。ので、駅からバスに乗り港まで向かう。その方が時短にもなるし、なにより疲れなくて済む。


 金は大丈夫だ。

 お財布にはまだまだ余裕がある。


 なぁに、また稼げばいいさ。



 駅につき、ちょうどバスが止まっていたので乗車。数分後には出発した。



「バスは快適だなぁ。ぼうっと景色も眺めていられるし」

「……有馬くん、なんかおごってもらってばかりでゴメンね」


 申し訳なさそう謝る関さん。


「いや、良いんだ。金は自分で稼いだものだし、かといって物欲もなくてさ。貯金ばかりだった。だから、関さんの為なら……いいかなって」


「いったい、なんのバイトをしてるの?」

「バイトとはちょっと違うんだけどね。実は――」



 関さんに真実を話そうとしたら、スマホに着信が入った。……ん、誰だ?


 画面を覗いてみると、そこには【親父】の表示があった。なんだ、親父かよ。無視しても良かったが、この時間帯にメッセージは珍しすぎる。万が一もあるかもしれないと、俺はスカイラインのメッセージを確認した。


 すると。



 親父:おい、純。お前、学校サボったのか!? しかも咲良ちゃんを連れていったそうだな。松下先生から連絡があったぞ。返事をしろ、馬鹿息子!



 なんだそんなことか。

 水を差すんじゃねえ、クソ親父っ!


 俺は“既読スルー”した。


 デートの邪魔をさせてなるものか。



「どうしたの、有馬くん」

「なんでもない。ただの迷惑スパムメールさ」

「そっか。あ、もう到着だね」



 バスが停留所に止まった。

 深海水族館に到着したんだ。


 俺は、関さんの分の料金もまとめて払い、バスから降りた。スマホの非接触型決済NFC・交通系電子マネーはラクチンで最高だ。



 バス停から少し歩くと受付に到着。ここでも電子決済をして楽々入場。しかし、入場料は二千円もするのか。いつのまにか値上がったらしい。



「さあ、ついに水族館だ」

「うん、楽しみだね。そ、そうだ……手を繋ごっか」


「……ッッ!?」



 繋ごっかと言う前に関さんは、俺の右手に触れていた。……俺は今、嬉し涙を流している。

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