第七感機構 〜幸福謳歌天邪鬼〜
遊多
幸福謳歌天邪鬼
今日は七夕。街頭のスクリーンが梅雨明けのニュースを報じる昼下がりの頃。
剃られていない髭と腹回りの脂肪を蓄えた白シャツの男がスマホにヤジを飛ばしていた。
「天野さん、またパチンコに行きましたね?」
「ん、ああ? 行ってないぜ?」
「なら何故あなたを見たって声が出るんですか!」
「いいやぁ? 俺ぁパチ屋になんて行ってないし、一発でラッキーセブンなんて揃ってねえぜ?」
百種を超える雑音の中に、鼻クソほじってる小汚い中年男の憎たらしげな声が混ざってる。
口振りから見るに、人様の税金で平日からパチンコに行っているみたいだ。
まあ、アタシも夏休み前なのに学校サボっている時点で人のコト言えないけど。
「ん、なんだガキ。見せもんだぞコレは!」
「……へえ、アタシのこと見えるんだ」
「見えてねえ! 失せなくていいガキ!!」
でも目の前のアタシにブチギレてるじゃん。
まあいいや、見えてるなら話を進めるだけだし。
「ならアンタ、自分の状況気付いてる?」
「あぁ!? 気付いてるよ!」
「はい気付いてない。アンタは『天邪鬼』になった。どうせ、しょーもない逆張りや嘘でも繰り返してたんでしょ、だから天邪鬼になった」
「なんだとぉ……!?」
うん、図星みたいじゃん。この仕事も板についてきたなぁ。
人間には第六感だけじゃなくて、第七感っていうのもあるらしい。
視覚、聴覚、触覚、味覚、感覚、知覚、そして幻覚。
強く願った架空の想像を、引き寄せの法則で現実に創造する。
そんな魔法みたいな機能が、人間には備わっているんだってさ。
「アタシの仕事は、そんな妄想のしすぎで幻覚に
こう見えても国家公務員みたいなもんだし。そして、アタシもこうして保護された人間の一人。
ま、覚醒めたての時に見つけられたのはラッキーかな。
「る、るさくない! いちいち下から目線で、言えぇ!!」
「なんでそんな物騒なモン持ち歩いてんのさ!」
オッサンが取り出したのは折り畳み式のナイフだった。そこそこ前まで普通の女子高生だったアタシには、なんか危ないということしかわからない。
怒りに反して奴が浮かべていたのが満面の笑顔だったのは、天邪鬼の影響か、はたまた威嚇かはわからなかった。
「ああ、アンラッキーだったのに……最高だ!」
「ちょいちょい、落ち着いてそれ下ろして」
「指図、しろぉおおおお!!」
「あ」
だが、あろうことか。ナイフを振り上げたオッサンは自分の胸を一突きしやがった。
コイツ、まだ天邪鬼の性質わかってないのか。やろうとしている事と逆のことしちゃってんだよ。
「ぁ、え?」
「っやば!?」
オッサンの手から力が抜ける。そして、胸から流れ出したモノを見て戦慄している。
まずい。第七感に覚醒めた人を、これ以上見られるわけにはいかない。
これ以上目立つとカバーストーリーでの誤魔化しも無理が出てくるし、アタシの査定にも関わる。
すかさずアタシはブレザーを脱ぎ、カバンを広げ、チビのオッサンを包み込むようにして地面に押さえつけた。
「何だよこれ。何で、俺の、身体」
「大人しくしろよオッサン!」
「何で誰も見てるんだよ! だって」
そうだ。今アンタの身体からは、血の代わりに『歯車』が流れ出ている。
いくら天邪鬼のアンタだろうが、戦慄するのもおかしくない。
第七感に覚醒しちゃったら、血や肉は揃って歯車となる。
幻想の具現化という奇跡を成し遂げるための舞台装置となり、地球という劇場で幕の上がった『人生』を盛り上げるための機構となるんだよ。
「誰か、誰か俺を見るなぁ……なんでだよ……」
「見えてないんだよ。アタシは透明人間だから、普通の人には見えない」
かく言うアタシも舞台装置の一人だ。
アタシより小さなモノは、触れれば同じく見えなくなる。
第七感の無い人たちには、だけど。
「せっかくスリーセブンだったのに、クソ職員から電話が来て、それで反対のことしか出来なくなって……」
「同情はするよ。アタシも同じだしね」
「ああ、アンラッキーセブンだ……最高だ!!」
アンラッキーセブン、か。
確かに応援が来るまで、号泣しているキモいオッサンを抑えなきゃいけない。
それに人の大当たりを見ても楽しくない。
ましてやアタシは透明人間以前に未成年だから、席の横取りも出来やしない。
加えて、身体を大きく見せるため広げた制服は油まみれだ。
カバンだって丸洗いしなきゃならない。
「わかるよ……今日はアンラッキーセブンだ……」
アタシは無意識に、織姫と彦星へ今日のような酷い日が続かないよう願ってしまった。
「聞こえるか透明人間。織姫と彦星の機構が現れた、天邪鬼の移送が完了次第現場へ向かえ」
「ああっ、もう! 最悪だよ!!」
チクショウ、残業確定じゃん。
ああ、やっぱり今日はアンラッキーセブンだ。
第七感機構 〜幸福謳歌天邪鬼〜 遊多 @seal_yuta
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