第16話 停車

 秋風ちえたちが乗ったバスは戦闘時のメンテナンスやら壊れた銃の補修やらで一度停車した。近くには小さな森があり、水源が管理されているので補給する。


「通話は終わりましたか」

「はい!」

「私は生物兵器の破片が詰まった方を修繕しますから、そちらの方は何か異常がないか確認しておいてください」

「はい!」


 その頃、森の陰から一向を伺う存在があった。


「ふーん、俺たちが牛耳っているこの森の近くにね、不届きな野郎どもが」


 「影狼かげろう衆……」赫鳳かくほうせんがだだっ広い屋敷の中でぽつりとつぶやいた。


 「千さま」千の横に茶が置かれる。


「うん、何だったかな」

「確かかつての4度の危機の際に人類に仇成あだなす組織として暗躍したとか。現在は人類の復興を阻止するという名目で鳴りを潜めて旅人から金銭を巻き上げる小悪党になり下がったと」

「聞いたことがない」

「ええ、ところでおひとりで行かせてしまってよろしかったのですか」

「秋風? いいよ別に、我が赫鳳道場の免許皆伝で次期跡取りの”赫鳳秋風”なんだ。そこそこ強いから」

「ええ、反目して高校教師になって修行さぼってた千さまと違って。秋風さまはちゃんと修行していらしたのでね」


「ああ、破片が酷いな」


 銃を分解しながらシリルがぼやいた。


 「ほんとですね」と声をかけてきた秋風を見上げる。


「もう終わったんですか?」

「はい、私の方は」

「銃弾はあとどのくらい」

「あと3分の1くらいですかね」

「あぁ……」

「スポットに行く道中から外れてしまいましたもんね」


「皆さんどこへ行ったんでしょう」

「水汲みや洗濯だそうです。この森は水源管理されてて蛇口捻ったら水出るので」

「へぇ……、秋風さん? 後ろ」


 見ると、副運転手が目隠しをされた状態で森の中から現れた。背中に銃を突き付けられながら。


「影狼衆だ、大人しくしてくれれば殺さない。銃弾と金庫、個人の貴重品。最低限の生活必需品は残しておいてやる」

「シリルさん……」

「多分森に入った人は全員……。わかりました、手を打ちます」

「それからもう一つ、俺達の飼い犬が一匹逝ったようだ。知らないか」

 「知りません」とシリルが答えた。

「宇宙人が改造した巨大な狼型の生物兵器、ロボって名前だ。俺達がふんだくって飼いならしていたんだが。お前たち、知らないか」

 「……知りません」とシリルがまた答えた。

「よお、隣の奴の顔が変わったぜ」


 シリルはハッとして秋風の方を見た。


「お前たちだな」

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