第14話 決着

 いつまで経っても放たれない銃弾が秋風ちえをじらせた。まだか……

 ま


 一発のすさまじい閃光が走った。しかし、狼は止まらない。銃弾は狼の顔の近くまで盛り上がった小さな岡の斜面をさく裂させただけだった。


「……!」


 「くそ、あんなの今までの運転でも見たことがないぞ」と運転手と副運転手の二人が運転席で悪態をついているところだった。


「早く何とかしてくれ! 縄張りからはとっくに出てるんだ」


 運転席のドリンクホルダーに挿したゆがんだタバコの箱が小刻みに揺れる。秋風ははやる気持ちを抑えながら足元を撃ち続けた。


「待って!」


 スタッフが叫んだが耳栓をした秋風には届かない。狼があごで周りの犬たちを突っぱねてバスに向かって飛ばしてきた。秋風の撃った弾が犬に直撃した。その肉体が赤黒く膨れ上がる。


 バン! と大きな音がして犬の破片がスタッフの銃に降りかかり、銃口に詰まった。スタッフがデッキの落下防止の手すりに足をかけて車体の側面に駆けだした。


 秋風は気が付かないままスタッフが狙撃に専念できるように引き続き撃ち続けていた。しかし、車体の側面に一匹の犬がしがみついていることにも気が付かなった。


「僕の友達が来るんです」


 徒然とぜんは、ダレルとともに研究所兼自宅の片づけに取り掛かったところだった。


「そうなんですね。じゃあ早くきれいにしないとですね、一旦全部外に出してしまいましょう」

「あ、はい」


 徒然が黙々と作業をしていた時にダレルが壁のCDに気付いた。


「珍しいですね。破れてるけど」

「ああ、それは……その友達がくれたのかな」


 徒然はサイバーエッジオメガドライバーを運びながらうろ覚えの記憶をたどっていた。


「捨てずに持っておきたいんです」

「わかりました」


 ドラゴンブレス型粒子加速器を2人で解体していく。


「ところで」

「はい?」


 二人でカリグラフィジオメトリ希釈液の容器を運び出して置いたところだった。


「バスはどこからですか」

「ああ、白銀劉しろがねりゅうってところです」

「都会なんですね、ああ」


「ああ、そういえば」


 徒然はさび付いた雷電式遺伝子破壊織機ドライバーをダレルに渡した。


「たしか無頼あの人も白銀劉でしたよ」

「そうなんですね」


「ちょっと重いので頑張ってください」


 徒然はインパクト


「あのフライパンはどうしますか」

「あれは……」


 ……


 走り続けるバスのデッキで銃を撃ち続けていた秋風はすぐそこまで来ていた犬にようやく気がついた。


 無頼は白銀劉にいる。バークレー兄弟の弟、シリル・バークレーとともに。


 バスの側面を走ってきたスタッフがナイフを投げて犬の胴体を切断した。それでも秋風に噛みつこうともがいていたが、秋風がナイフを噛ませてそのまま突き飛ばした。


 ただシリルは今、無頼のもとには居ない。彼女の生活費を賄うためにバイトに出ていたんだ。


 スタッフが秋風のデッキに滑り込むように入ると、秋風と肩同士がぶつかって少しバランスを崩してしまうが、秋風の体を支えた。


「銃を代わってください」


 くちびるの動きがよくわかる。はきはき喋るタイプだと秋風は思った。再度促されるが、秋風は首を振った。手が痛い、指の関節が固まってしまって言うことを聞かないのだ。秋風はすがる目でスタッフを見た。


 シリルのバイトは長距離バスのスタッフ、数日間の往復のシフトは割りがいいからやってる。


 「失礼します」とバスのスタッフは銃を握りしめている秋風の指に優しく手を添えた。

 秋風は手を握られた瞬間、少し息が止まった。ずっと銃の反動に耐えていたからか心臓の動きが激しい気がする。銃の反動によるものだから仕方がない。


 シリルが今回乗る予定のバスは白金劉から三泉町みずみちょうへ向かうルートだ。つまり


 秋風の目の前に巨大な狼型の生物兵器のあんぐりと開いた口が迫ってきた。


「おい、チェーンソーを持ってくるぞ」


 耳栓越しにはっきりと聞こえた。

 眩い光がひらめく。

 生物兵器が秋風の目の前で赤黒く膨らんでいった。


 白金劉と三泉町を繋ぐ化物けもの陸道の獰猛な生物兵器たちのひとつの頂点が死んだ。バスのいちスタッフが仕留めたのだ。


 彼の名前はシリル・バークレー。

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