第13話 狙撃

 秋風ちえはバスのスタッフのライセンスを持ってはいたが、銃を撃った経験は少ない。それでもやるより他は無いのだ。決して覚悟してこなかったわけではない。人が住むどころか命の危険すら孕んでいる土地の方がずっと多い、そんな世界では移動することすら軽々しい覚悟ではいられない。


 唸り声をあげて迫り来る機械の体を持った狂犬の群れがバスに迫ってきた。


「とにかく足元や近くの障害物を狙ってください、足止めになります。ここの地域に移動してきたのでしょう、縄張りを抜ければ安全です」

「わかりました」


 秋風は深呼吸をして、手に息を吐きかけた。


「全員耳栓をお願いします。車内、個室にいる方も全員です。決して窓を開けないよう願います」


 凄まじい音を立てて二つの銃が火を吹いた。すると犬たちの群れの正面の地面がまるでめくれ上がったかのようにあっという間に破裂していった。何体か動けなくなったようである。後続の犬たちはたじろいだ。地面がどろりと溶けてマグマのようになっている。すると先頭の引き返そうとした集団と状況を知らない後続とで押し合いへし合いになった。


 「すぐに来ます。あの地面に仲間を押し込んで橋を敷くんです。」事前に言われていたことだが、スタッフの言う通りになった。「撃ってください。ひたすら撃ってください。」


 秋風は獰猛な犬たちの表情を見ながら若干怖気付きながらひたすら撃ち続けた。冷や汗が額ににじんだ。突然、群れの後方から巨大な狼の姿をした生物兵器が現れた。周りの犬たちを蹴散らしながら猛然と追いかけてくる。


 「必ず退けなくてはいけません。」と打合せの時に言われていたことである。「ロボ」と呼ばれている巨大な狼型の生物兵器は多少の足止め程度なら軽々と飛び越えてしまう。秋風は「どうするんですか」と聞いた。


「私が撃ちます」


 走るバスのデッキで、ふと顔を上げた秋風はスタッフのくちびるの動きで分かった。光熾こうし弾の熱もあっという間に冷めてしまう程冷静な表情を見たのだ。

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