第9話 秋風

 秋風ちえは出かける準備をして、玄関の前に立った。


「こんな夕暮れどきに出かけるのかい」

「うん、少しの間空けるかな。ツレヅレのところに行ってくる」

「ああ、露木つゆき君か。そういえば君のクラスメートだったね」

「"先生"はさみしくない?」

「いや、たまには羽を伸ばしておいで。随分と、苦労をかけたから」

「……気にしないで


 「それはそうと」と先生が言った。


「チェーンソーの男が出たそうだよ。バークレー兄弟の」

「へぇ……無頼ぶらいさんの研究のすいの結集が」


 玄関の靴箱に飾ってあるシラユキソウの花がオレンジ色に染まる。


「今回のおたずね相手は切り裂きフリードマンだそうだよ」

「あれ、三泉町みずみちょう? 八十草やそくさの隣だね。確か彼も」

「気をつけてね。バークレー兄弟、兄のダレル・バークレーの狩りは手荒だよ」


 そして徒然とぜんの研究所兼自宅。


「ウケケケケケ、イヒッアッハハハハ」


 あたり一面が血の海となった場所で、笑う切り裂きフリードマンが上半身と下半身を真っ二つにされていた。


「誰?」


 重厚なチェーンソー、刃物よりも鋭い切り口でどんな敵だろうと何人だろうと薙ぎ倒していく。最強のチェーンソー使い。


「……ダレル・バークレー」

「ああ、これは大変申し訳ありません。お怪我はありませんか」

「大丈夫です……」


 ダレル・バークレーはおもむろにやや大きめの細長い段ボール箱を取り出した。


「何ですか」

「ミヤモトチェーンソーのデリバリーです。チェーンソーのお届けにあがりました」

「あぁーはいはいはいミヤモトさんの、どうもお疲れ様です」


「チェーンソー頼むは頼んでたんかい」


「バイトしてるんですか?」

「あ、はい。いまちょっと金欠で」


「最強のチェーンソー使いの肩書きでバイトしてるんだ……、金欠とか言うなよ」


「弟さんは?」

「はい、チェーンソーの製品開発と無頼さんの研究の助手をしてます」

「へー」


「何この平和な会話」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る