第一章 見習いは化け物に頭を食われる③
見習い試用期間の恒例行事――星集め。
配達物の難易度に合わせて星の数を設定し、二か月の間で一番多くの星を集められた隊が優勝。一週間の長期有給休暇が隊の全員に付与される競争である。
一応参加自体は全ての隊に呼び掛けているのだが、実際に参加するのは見習いが所属する隊のみ。一週間の有給休暇よりも、一から見習いの育成をする方が嫌だという薄情者が多いのだ。ある意味この報酬は見習い育成の手間賃の意味合いも多い。
ちなみに見習いにだって、この競争に参加するメリットがある。
同期の中で一番星を集めた『主席』にはご褒美として、ゼータ権限でどんな願いでも叶えてやることを約束しているのだ。
「いいか、主席をとるのはこの俺。そしてステラ隊に配属してもらうのも、俺様だからなっ‼」
そんなミツイを配属したのは二番隊。中堅どころを多く集めた隊である。本人は熱くステラ隊を希望していたのだが、そんな花形部署にいきなり見習いを回せるはずがない。
彼の面倒は隊長のゴーテルに任せてある。寡黙で見た目は危ない橋をいくつも渡っていそうな風貌だが、仕事には誰よりも愚直に取り組む男だ。隊員からの信用も厚い。今も「俺も応援する」と言いながら、いつまでも食堂から離れようとしないミツイを誘導していってくれた。
ちなみにミツイが言っていたステラ隊というのは、この〈
「それじゃあ、フェイ君。がんばりましょうね」
のんびりと同期に挨拶して去っていくニコーレは、女性が多く所属している五番隊に配属した。いかに荷物を相手にする仕事とて、なるべく女性にお願いしたいという客からの要望は少なくない。主にそんな仕事を丁寧にこなしてもらっているから……正直この星集め競争には向かない隊である。彼女はあまり気にしてないようだが。
そして、無難なようで一番厄介な予感がする問題児。
「――というわけで、お前は一番隊。俺の下についてもらうことにした。何か異論は?」
「何もありませんっ!」
ニカッと微笑み、やっぱり返事だけはとても気持ちがいい。
全員がこうなら可愛げがあっていいのにな、と思いつつ、ゼータは食堂に残る隊員たちを見渡す。
一人は机に突っ伏しながらこちらを睨んでおり、一人の男は爪にマニキュアを塗っており、一人の女は携帯端末でゲームに勤しんでおり、もう一人の男は爆睡しており……まともに話を聞いている者は誰もいない。
だからゼータは、せめてこちらを見てくれている男を指名した。
「アキラ、お前後輩が欲しいと言っていたな?」
「ハァ⁉」
非難の声をあげるのはアキラ=トラプルカ。去年入隊した二年目。くすんだ黄色い髪が特徴の、フェイより二歳年上の少年だ。完璧な任命である。それなのに、本人は不服を隠そうともしない。
「言ってないっすよ! オレは下僕がほしいって言っただけで……絶対、嫌っす! 見習いに同行するなんて面倒、ぜったい嫌っすからね!」
その全力の拒否に他の隊員はようやく顔を上げるも、全員せせら笑うのみ。
その中で、ゼータはアキラの顔すら見ず淡々と続ける。
「まぁ、俺が命じた以上、お前に拒否権などないんだがな。当然、当分の配達には俺も同行する。日常の面倒は任せた」
「げ~っ。配達にアドゥル副長もいるとか、もっと面倒じゃないっすか……」
「喧しいわ。とりあえず、今日の伝達事項は以上だな。あとの三人は通常業務で――」
その後、ゼータは今日の配達スケジュールを口述。副局長兼一番隊の隊長を務めているわけだが、毎日これといった伝達事項などない。むしろ毎日ある方が困る。ゼータは平和主義なのだ。
そして、最後に今日の一大イベントのみ復唱。これぞ模範的な朝礼である。
「じゃあアキラ。最初の出立は一二〇〇。それまでに見習い分の用意も頼むな」
「……了解っす」
「それじゃあ、解散!」
その言葉を待ってましたとばかりに、一斉に隊員が立ち上がった。散り散りに去っていく同志たちを見届けながら、こういう時ばかり仲が良くて何よりだ、とゼータが胸中で寂しく感じていると。
「見習いくんはコッチっすよ~」
アキラに手招きされて「はーい!」と挨拶するフェイ。そして彼の元へ行く前、「行ってきます!」と自分に会釈してくる律儀さにゼータは恋しさまで募る。だけど大人のゼータはそれを隠してシッシッと追い払えば、フェイはゼータの悪態など気にすることなく、スタスタと「元気だけはいいっすね~」と苦笑するアキラの元へ。
アキラはやる気のない態度全開ながらも、見習いに手を差し出していた。
「じゃあ面倒っすけど……きみの面倒みることになったアキラ=トラプルカっす。短い付き合いかもしれないけど、どーぞよろしく」
二人の握手を見届けて、ゼータも踵を返す。
――まぁ、あいつに任せておけば、見習いが死ぬことはないだろう。
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