4-5
あの日、湊さんは剣崎に思いの丈を告白したのだった。なんせミスコン優勝候補の美貌である。本人はまさか断られるとは思っていなかったに違いない。ところがそれに対する剣崎の返事は「帰れ、このクソ女。二度とくんな」だった訳だ。
剣崎本人からそれを聞いた時、わたしは思わず二度目の蹴りを繰り出した。女の子の告白に対してその言いざまはなんだ。さすがに酷すぎる。たけやんを利用しようとした湊さんも湊さんなら、女の子に向かってクソ女呼ばわりする剣崎も剣崎だ。
ぐえ、とヒキガエルがつぶれたような(実際にヒキガエルに遭遇したことはないのであくまでも想像だけれど)声を発した剣崎はしばらく腹を抱えてうずくまっていたが、息も絶え絶えに「しゃあないやろ」と声を絞り出した。
「クソ女にクソ女って言って何が悪いんじゃ」
一通り思い出してみて、なんて救いのない話だ、とわたしは項垂れた。結果、誰一人として幸せになっていない。
「これでよかったのかな」
誰にともなく問いかけると、たけやんが美味しそうにパフェを頬張りながら「よかったんやろ。人の気持ちなんかコントロールできんのやから、なるようにしかならんて」と言ったので少し救われた。
「たけやんは本当に懐が深い」
「んなことないで。俺は俺のしたいようにしてるだけやし」
ちょっと考えて、続けた。
「俺な、こんな見た目やからもてへんやろ。でもだからって卑屈になったことなんかなくてな、自分のこと大好きやねん。見た目は冴えなくても人様に恥ずべきことなんかしたことないし、こうやっていい友達にも恵まれてるしな。剣崎は多分それをよう分かってるねんな。あいつがどんなにからかっても、俺の自尊心が傷つくことないってちゃんと知った上でああやって俺のことネタにしてくる。それってある意味信頼関係があるから出来ることやろ。でもそのあいつが今これだけ俺に気を遣ってるってことは、それだけあいつが今回の件を重く受け止めてるってことやんな」
アホやな、たかが振られたくらいで、俺はなんともならんのにな。でもせっかくだからしばらくこのままにしとこ。しおらしいあいつなんて、こんなことでも無ければ見られへんからな。
おかしそうに笑うたけやんはとても頼もしかったから、わたしもほっと一息付けた。
しかしまあ、それだけのことがあって尚、たまにすずめ荘に顔を見せる湊さんはすごい。まだ剣崎を諦めていないのか、単にこのまま逃げ出すのはプライドが許さないのか。いずれにせよ敵に回したら怖い人だな、と思った。
こぶりのカップに入ったパフェのソフトクリームをコーヒーゼリーと絡めて口に運ぶ。甘ったるいクリームの中に仄かにコーヒーの苦みが混じる。
「青春の味―」
そう呟くと、たけやんがなんやねん、と笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます