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季節は巡ってあっという間に秋がやってきた。あの日以来、湊さんがすずめ荘に現れる回数はぐっと減った。ミスコンのことでどうしても相談しなくてはいけない件がある時だけ現れて、さっと帰っていく。湊さんが現れると剣崎は黙って部屋を出て行ってそのまま決して帰ってこなかった。
たけやんがそんなあれやこれやに気付いていたかというと、もちろん気付いていたのだろうけど沈黙を守り続けていた。剣崎はたまにもの問いたげな視線をたけやんにむけることがあったけれど、それを受け止めるたけやんの表情はいつもの通り穏やかなままだった。
鴨川の向こうに見えていたもくもくとした入道雲はいつの間にか消えて、澄んだ空気に秋の気配が満ちている。京都の秋は美しい。広告に現れるのはいつも有名どころである東福寺や清水寺、嵐山など誰もが知っている場所ばかりだけれど、特に見るべきものもない例えば丸太町から三条辺りを鴨川沿いに走るだけでも、透き通るばかりの青い空を背景に立ち並ぶ山々の姿に心を打たれてしまう。少し冷たくなった朝の空気、どこまでも続く空、眩い日の光。そういったものがあいまって、ここからどこへも行きたくないような、でもどこまでも行きたいような、不思議ともどかしい気持ちになるのだ。
「ごめん!」
構内で見つけたたけやんを半ば無理矢理カフェテリアに引っ張り込んで、向かい合って座った。パフェ奢るから!と威勢よく言ったのに、財布を見たら三十円しか入っていなくて、慌てるわたしにええからええから、とたけやんがパフェを二人前注文してくれた。
「ええよええよ、丁度バイト代入ったしな」
「申し訳ない。さっきコンサイス条約集買ったからすっからかんなの忘れてた」
「まああるわな、そういうこと」
三秒ほど沈黙が落ちる。ほぼ毎日のようにすずめ荘で顔を合わせているのに、こうして外で改まって向き合うとなんだか照れ臭い。高校生の頃、たまたま帰りの電車で会社帰りのお父さんと一緒になった時のような感じ。同じ家から出発して同じ家に帰るのに、妙に懐かしいような、ほっとするような、それでいていたたまれないような。
「たけやんさあ」
言いかけて口ごもったわたしに、たけやんが助け舟を出してくれる。
「剣崎と湊さんのことやろ?」
「あ、そう、まさにそれ」
どこまで知っているんだろうと、思わずたけやんの目の中に何かの印を探してしまう。
「湊さんに言われてん」
「なんて?」
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