4-1
女の子が泣きながら突然部屋から飛び出して来たら、あなたはどうする?
取るに足らない心理テストみたいな問いかけだけど、それは実際にわたしの身に起きたことであって、答えは何もしない、だ。
一〇三号室から飛び出してきてわたしの隣りを走り抜けていったのが湊さんだと気づくまでに三秒ほどかかった。涙でびしょびしょになった顔で走り去っていく湊さんはなんだかドラマじみていて、わたしは心配するよりも先にぽかんとしてしまった。
追いかけたほうがいいのかどうか躊躇したけれど、湊さんはすでに走り去っていたし、わたしはネギが飛び出た買い物袋を持ったままだった。大学から帰ってくる途中にあるスーパーの特売日だったのだ。そこのスーパーには威勢のいい魚屋のお兄さんがいて、一時期サンマにはまってサンマばかりを買って帰るわたしのことを「サンマのお姉さん」と呼んでたまにちょっとおまけをしてくれる。
「ねえねえ、いま湊さんがすごい勢いで…」
ドアを開けて覗き込んでも返事がないので不審に思う。
「玲人君?誰かいる?」
行儀悪く玄関に靴を脱ぎ捨てて買い物袋を台所に置く。そのまま奥の部屋を覗き込んだら仏頂面で剣崎が胡坐をかいていたので驚いた。
「わっ!居るんだったら言ってよ、びっくりするじゃん」
「ん?ああ」
そう言って、こちらに背を向ける。明らかに不機嫌な様子だ。なにかがおかしい。
泣きながら飛び出してきた湊さん、剣崎以外誰もいない部屋、湊さんはかわいい、剣崎は…阿呆だ。
それらの事実が指し示す可能性が一つしかないことに思い当たった時、わたしは剣崎の背中に思い切り飛び蹴りを食らわした。
「けんざき!あんた、バカだバカだと思ってはいたけど、何してんの!?」
「いってぇ、アホか、なにすんねん!!」
「信じられない!サイテー!不潔!女の敵!!」
ショックすぎて最後は涙声になった。アホだとは思っていたけど、それでも人を傷つけるようなことはしないやつだと思っていた。なんだかんだ信頼していたのだ。まさかこんな形でその気持ちを裏切られるだなんて!
「湊さんに謝んなよ!」
「なんで俺が謝んねん!!!」
「だ、だって」
乱暴しようとしたんでしょ、と言いたいのに動揺しすぎて言葉が出てこない。
「だって、ら、ら、ら」
どもっていたら、「お前は大黒摩季か」と突っ込まれた。
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