3-14
「十回やって全部剣崎が勝ったの」
憮然としてわたしは答えた。思い出すだけでも腹が立つ。剣崎は一度も手加減しなかった。花ちゃんは泣きそうだったけれど歯を食いしばって堪えていた。
十回目の勝負が終わると、剣崎はコントローラーを放って言った。
「疲れたしもう寝るわ」
そのまま床に伸びてあっという間に寝息を立て始めた。余りの速さに皆唖然とした。部屋に沈黙が落ちる。と、やおら花ちゃんが立ち上がった。
「もう一回やろ」
寝ている剣崎の肩に手を置いて揺さぶる。
「んあー、あとで」
剣崎が面倒そうに答えて寝返りを打つ。
「今!」
花ちゃんが大きな声を出したのでわたしたちは驚いた。今まで一度たりとも我儘を言ったことのなかった花ちゃんが!
花ちゃんがゆっさゆっさと剣崎を揺さぶると、がっくんがっくんと剣崎の頭が揺れた。たまに「んが」と間抜けな鼾が混じる。それが面白かったのか、花ちゃんはクスクスと笑い始めて、やがてそれはキャッキャと楽しそうな笑い声となって花ちゃんの口から零れ落ちた。一部始終を眺めていたわたしたちは、言葉を無くした。
一生懸命に気を遣って、花ちゃんを楽しませようとしてきたわたしたち。面倒だからと部屋に寄り付かなかった剣崎。花ちゃんに合わせた遊びをしようと苦心したわたしたち。大人気なくゲームで連勝した剣崎。
解せない、とわたしたちは思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます