3-12

 大人気、という言葉がある。だいにんき、じゃなくて、おとなげ、の方。意味は、大人らしい自制や分別。そういう分別を持ってる人と持ってない人が世の中にはいる訳で、もちろんわたしたちの誰も剣崎にそれを求めてはいなかった。けれど、ああも目の前で見せつけられると本当にこいつは頭のねじが一本と言わず十本くらい外れてるんじゃないかと言いたくなる。


 テレビ画面でキャラクターたちがそれぞれの乗り物に乗ってレースを行うそのゲームは、色々なアイテムを手に入れられたり、そのアイテムを競争相手にぶつけて妨害することが出来たり、盛り上がる要素が十分に盛り込まれていた。色とりどりの乗り物が、くねくねと曲がりくねったコースをブウウンとコミカルな音を立てて走り抜けていく。


「あたし、このゲームしてると自分も身体ごと右とか左に動いちゃう」

「そういうやつらはたいてい下手くそやねん」


 あしらわれて美都が憮然とする。でも言われてみれば、剣崎はコントローラーを操作しつつ視線は画面に釘付けだけれど、胡坐をかいて座ったその体幹はぶれていない。それを言えば、花ちゃんもそうだった。


 カットソーにコットンのパンツを履いた花ちゃんは、ピンク色のドレスを着たお姫様のキャラクターを真っ先に選んだ。慣れた操作で乗り物のタイプを選び、剣崎の隣りにちょこんと正座をしたと思うと、今まで見たことのないきびきびとした操作でキャラクターを操り始めたのだった。小さな手で右へ左へとコントローラーを動かすけれど、その身体はしっかりと正座をしたままだ。


「花ちゃん、強いなあ」


 たけやんが感じ入ったように花ちゃんを褒めた。


「まあ俺の方が強いけどな」


 剣崎が余計な一言を付け加える。

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