3-11

 その日はどんよりとした曇り空で、予報では夕方から雨ということだった。もうすぐ美都が花ちゃんを連れてくるというので、玲人君はせっせと部屋の掃除に勤しんでいた。


「おい剣崎お前はよどっかいけよ」

「なんでやねん。今にも雨降りそうやん」

「お前、昨日から風呂入ってないやろうが。丁度いいわ、外で雨に打たれてこい」

「アホ、酸性雨ではげるわ、こいつたけやんと同じレベルになったらどうすんねん」

「衛生的な問題やろ」

「今日もバイトないからええねん」

「よくない!!!」


 クイックルワイパーを振り回す玲人君を物ともせずに、剣崎は床に伸びている。たまたま二日続けてバイトが休みでしかも雨予報なのがよくなかった。そこに、ピンポン、とチャイムが鳴って「こんにちはー」と美都の声がした。


「ああ、いらっしゃい」


 玲人君が振り返る。いらっしゃいだって、わたしたちには絶対そんなこと言わないのに。ねー、とたけやんと頷き合っていると「お前らは招かれなくてもいつもおるやんか」と憮然と言い放たれる。


「外雨降ってきたよー」


 美都と花ちゃんが入ってきて、花ちゃんが黙ってぺこりと頭を下げた。


「今日は何して遊ぼうか。あたし図書館で本借りてきてん」


 美都が手提げの中から児童書を何冊か取り出した。


「そしたら、お茶入れるわ」


 玲人君が立ち上がったのと、剣崎がテレビゲームのスイッチを入れたのがほぼ同時だった。


「おいまじか、お前やめとけよ。本読む言うてんのやから」


 たけやんが窘めるが、剣崎は気にも留めない。


「ええやんか別に」

「良くないでしょ、子供が読書してる横で大人がゲームって」


 ねえ花ちゃん、と同意を求めようとして、あれ?と思った。花ちゃんの眼差しに、普段見慣れない強い光が灯ったように見えたのだ。その視線の先にあるのは剣崎が手にするゲームのカセットだ。


「あれ、花ちゃんもしかしてゲームやりたいの?」


 こくり、と花ちゃんが頷いた。つやつやの黒いおかっぱが勢いよく揺れた。

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