3-10

 クルクルと白いページの上を走るピンクや青や黄色の線。白いページの上には太めの線でお姫さまや花や動物が描かれている。「はみ出さないように周りから塗ったらいいんだよ」と言いかけてやめる。子供でいる間くらい、好きなだけはみ出したらいい。こうしなければいけない、ということに縛られずに何かを楽しむことのできる時間というのは本当に限られているのだ。


 幸い、剣崎と花ちゃんが顔を合わせることはあまり多くはなかった。面倒なことが嫌いな剣崎が花ちゃんがやってくる日にはふらりと出かけていくせいもあったし、そもそも夏の間は怪しげなバーでのバイトに精を出していてすっかり昼夜逆転の生活を送っていたせいもある。


「子供一人いるだけでも色々気をつけなあかんのに、ここに剣崎おったらややこしくてしゃあない」


 玲人君が言うと「ほんまやで」とたけやんが相槌を打つ。


「あいつほんまにおるだけでめんどくさいからな」

「花ちゃんの教育にも悪いしね」


 そうだそうだと和やかに笑い合ったわたしたちはすっかり油断していたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る