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とっつきやすいかとっつきにくいかで言えば、花ちゃんは圧倒的にとっつきにくい方の子供だった。なんせまず表情が乏しい。お菓子を出しても塗り絵を出しても、その顔に笑みが浮かぶことはなかった。お菓子美味しい?と尋ねると、こくり、と頷く。塗り絵楽しい?と尋ねると、黙って首を傾げる。駄々をこねることも、はしゃぐこともなく、ただ空気の一部みたいに淡々とそこにいた。
こどもというのは騒がしかったり我儘だったりあるいはへんにませていたり、とにかくこちらに気を遣わせるものだという思い込みがあったから、わたしたちは拍子抜けを通り越していたたまれなくなってしまった。気を遣ってなんやかやと世話を焼こうとしてみても暖簾に腕押しで、やがて花ちゃんのそういった性質に慣れてしまって無理に心を開こうとする試みは放棄した。例え相手が子供であっても、その心に無理やり自分の居場所を作ろうとするのは不作法だという風に気づいたんだと思う。
でも、相手にとって特別であろうとする試みさえ放棄してしまえば、多くを求めない花ちゃんとの時間はただ淡々と過ぎていった。一緒にぼんやりと子供向けのアニメを見たり、近所の本屋さんを冷かしたり、玲人君が用意してくれたおやつを食べたりした。色鉛筆を握るいかにも柔らかそうな手を眺めていると、ああ自分は遠くまで来たんだなあといやでも気付かされる。自分達だって小学生だった時期があった筈なのに、わたしたちはもうそんな頃の気持ちが全然思い出せなくて、それは少し切ないようなそれでいて「もう自分は子供じゃないんだ」というような誇らしさもあって、なんだか不思議な気持ちだった。
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