3-7

 すずめ荘はその日も平常運転で、みなそれぞれが雑誌を読んだりテレビゲームをしたりと思い思いの時間を過ごしていた。部屋の中は軽くクーラーは効いていたもののそれでも夏の熱気のようなものが漂っていて、口を開けば意味もなく「夏だねえ」と呟きたくなるような、それはとても夏らしい夏の一日だった。テレビから甲子園の中継が流れている。


「おい玲人、麦茶くれよ」

「アホ、自分で取って来い」


 普段通りのそんなやり取りも心なしか物憂げで、わたしはベッドにもたれてうつらうつらと微睡んでいた。玄関のチャイムがピンポン、となったのはそんな時だった。玲人君が読んでいた本から目も上げずに「開いてまーす」と答えると、ドアがガチャリと開いて、そこに美都が立っていた。


 玲人君が「おう、お疲れ」と言いかけてふと言葉を止める。その目線を追うと、そこには女の子が立っていた。


 つやつやとした黒いおかっぱ頭にアニメのキャラクターが描かれたTシャツ、くたびれたジーンズ生地のひざ丈のスカートを身につけている。Tシャツから出た細い腕がいかにも頼りなげだ。女の子は半ば美都に隠れるようにして静かにそこに立っていた。


「お前の子?」


 剣崎が大真面目に美都に問う。思わず頭の中で計算してしまう。小学校低学年くらいに見えるから七歳だとして、わたしたちが十八歳だから…さすがにないな。いやまあ計算するまでもないんだけど、一応ね。


「そんな訳ないやんか」


 美都が呆れたように言う。はい、入っていいよ、と女の子の背中をそっと押すと、女の子は静かに靴を脱いだ。まるで自分の周りの空気を少しでも揺らすまいと気を付けているような、そんな慎重な動作だった。


「えっとね、この子、花ちゃんていうんやけど、夏休みの間たまに預かることになってん」

「いやそれはいいけど、もうちょっと説明してくれ」


 流石の玲人君も困惑を隠せない。


「ほら、そこにある歯医者さんの娘さんなんやけど、夏休み中で学校ないから暇やねんて。だからたまに一緒に遊んであげてって」


 美都はそこまで言うと、花ちゃんには見えないように皆にそっと目くばせをした。それ以上聞くなということなんだろう。たけやんが「花ちゃん、よろしくな」と微笑みかけると、花ちゃんはわずかに目線を逸らしてこくり、と頷いた。


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