3-5
「そうねえ。ちなみにわたしの誕生日は美都には手袋もらって、玲人君にはお菓子もらって、たけやんには回転ずし奢ってもらったねえ。剣崎はなんもくれなかった」
「ちょっと違う気がするな」
「だいぶ違う気がするね」
しばし言葉を切って、お互いの目の前の皿を空にすることに集中する。
「チキン南蛮ってさ、なんで南蛮っていうのかな。南蛮って歴史の教科書ではポルトガルとかスペインだよね。でもさ、蛮って野蛮の蛮だよね、よく考えたら失礼な話だね」
「まあまあ、そやな」
「歴史の教科書だとさ、まあ当時の無知な日本人がそう呼んでましたっていうので許されるかもしれないけど、でも例えばアメリカで料理の名前にジャップとかついてたらいい気しないよね。きっと気付いてないだけで、そういうことって沢山あるんだろうね」
「あるやろうねえ。気付かんうちに人に対して失礼なことしてたりなあ」
「怖いねえ」
「いやまあ。昼飯食うだけでそんなことまで考えてたらきりがないですよ」
「そうなんだけどさー」
「話し戻してええ?」
「ん?いいよ」
「誕生日な」
「ああ、はい、そうだった誕生日ね」
件のチキン南蛮も大分お腹に収まったので、わたしは今度こそはと意識を誕生日プレゼントに集中させる。
「湊さんはいかにも女の子って感じだから、かわいいマグカップとか。ぬいぐるみ?はちょっと違うか。アクセサリーは重たいというかもらった方も気を遣うよね」
なんせ異性からちゃんとした贈り物なんかもらったことがないのである。たけやん、相談相手を完全に間違えている。
「河原町の雑貨屋さんとか巡ってみたらどうかな」
無難なアドバイスしかできないわたしに、それでもたけやんはうんうん、といかにも参考になります、という風に頷いてくれる。
「…たけやんさあ」
「はい?」
「好きなの?湊さんのこと」
たけやんが口元に持って行きかけていたグラスをそのまま机に静かに戻した。
「改めてそんな聞かんといてくれる?」
「え、いやだってさ。大事なことでしょ?」
うーん、と目を瞑って腕を組んで考え込む。すでにおっさんの貫禄である。
「たけやん、湊さんとご飯食べる時にお絞りで顔拭いたりしてないよね?」
「…」
「店員さんに、ため口で話しかけたりしてないよね?」
「…」
「…」
「…」
「好きなの?」
「あ、はい」
そうかああ、好きなのかああ。なんだかわからないけど、両手で顔を覆って仰け反ってしまう。
結局、誕生日プレゼントは決まらなかった。
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