3-2
「玲人君、イケメンなんだから女の人が来るお店で働いたら玲人君目当てで通ってくる人沢山いそうなのに」
そう提案してみても、「女はすぐキャーキャー煩いからめんどくさい」と取り付く島もない。玲人君ってもしかしてゲイなのかな、と剣崎に聞いたら、まるで三日連続で宿題を忘れて廊下に立たされている小学生を眺めるような憐みの眼差しで見られた。
剣崎にそんな眼差しで見られたら訳も分からず腹が立って、もういいや、という気持ちになったので追及するのをやめた。腹が立ったので、思い切りつま先を踏んづけてやったら、「いてぇ、アホか!」と大袈裟なうめき声を上げていた。
玲人君がお店でもらってくるお菓子は高級なものが多い。今日のチョコレートも表面がつやつやとしていて滑らかで、絶対にコンビニでは売っていなさそうなやつだ。一つつまんでそっと口に入れてみる。中身は濃厚ないちご味のクリームだった。隣りで美都が「美味しいー!」と声を上げる。
美都のいいところは素直で真っすぐなところだ。美味しい。楽しい。嬉しい。悲しい。幸せ。美都の感情はいつも真っ直ぐにこちらに届いてくる。この中にいつか、好き、という感情も入ってくるのかな、とちょっと想像してみるけれど、全く現実味がない。わたしもあまり人のことを言えたものではないが、とにかく我々は恋愛というものからとても遠いところにいるように感じるのだ。
誰かを心から好き、と思えるようになること、いつかあるのかな。
折しも、テレビでは恋愛ドキュメンタリーというのだろうか、男女が同じバスに乗って旅をしているうちにカップルが成立していくという番組をやっていた。
「こうやってさあ、ちょっと一緒に旅しただけで、選んだり選ばれたりするんやからすごいよなあ」
美都が感じ入ったようにため息をつく。
「え、でもこの番組は流石にやらせじゃない?」
「やらせやろ」
玲人君も即座に同意する。ワンルームだから台所で掃除に勤しんでいてもわたしたちの会話は丸聞こえだ。
「えー、そうかなあ。夢のない」
クッションを抱きしめて座っている美都が、実はとてもロマンチストなことをみんな知っている。彼女の口癖は「ほら、あたし不細工やん?」だ。
———— 顔の作りが残念だからこそ、素敵な恋愛とかに憧れたりするんよね。少女漫画とかにあるべたなシチュエーションとかにも簡単にときめいちゃう。
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