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それからというもの、湊さんはたびたび、たけやんと一緒にすずめ荘を訪れた。受講している講義が被っているらしく、たけやんは今まで試験前しか足を向けなかった大学に頻繁に出没するようになっていた。
「あたしはちょっと心配やな」
美都が潜めた声で言う。今日の美都は真っ赤なセーターにクマさんのアップリケのついたチェックのズボンを履いている。
「たけやんと湊さんはなんていうかちょっと、住む世界?レベル?が違う気するし」
「それはたけやんに失礼ちゃうか」
玲人君が窘めるも、美都は言い募る。
「だってたけやん、完全に舞い上がっちゃってる。見てたら湊さんってそういうところ上手なんよね。うまくたけやんを頼ってるというか。何か話しかける時にちょっと袖を引っ張ってみたりすんの、別に意識してないんやろうけど、自分の魅力を分かってる人にしかでけへんな、と思う」
「まあでも、悪気がある訳じゃないんだし。それにたけやんが素晴らしい人なのは間違いないんだから、湊さんがたけやんに惹かれたとしたらそれは彼女に見る目があるってことだよね」
慎重に言葉を紡ぐわたしの前に、玲人君がほいよ、とちょっとよさげなチョコレートを皿に盛って出してくれる。部屋に美都とわたししかいない時にはこうやってスペシャルなおやつが出てきたりするのだ。
「ラッキー、これいいやつやん」
美都が嬉しそうに言って皿の中を覗き込む。
「店でもろた」
玲人君はそう言って自分は台所の掃除を始める。まずシンクをピカピカに磨き上げ、そんなに汚れてもいないコンロ周りを念入りに台拭きで拭いていく。シュッとした後ろ姿がキュッキュッとコンロを拭く動きに合わせてリズミカルに揺れる。少し長めの前髪が端正な横顔に影を作る。
玲人君が四条のゲイバーでバイトを始めたのはつい最近のことだ。なんでも学部の先輩に誘われたということで、「給料がいいから」とあまり悩むこともなく決めたらしい。
「ゲイバーってどんななん?」とわたしたちが興味津々で訊ねても「普通。女の人がおらんだけ」とそっけない返事が返ってくるだけなので、なんとなくまあそんなもんか、ということで落ち着いてしまった。
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