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 つまり、と玲人君が口を開いた。玲人君、美都、剣崎、たけやん、わたしの五人は北白川の天下一品に向かって歩いていた。湊さんは話を終えた後、用事があるのでと言い置いてすずめ荘を後にした。残されたわたしたちは、外の空気を吸いたくて夕食は外で取ることにしたのだった。


 湿気を含んだ空気の中を思い思いの速度でペタペタと歩く。夕暮れに染まる紫色の空の下、剣崎とたけやんの吸う煙草の煙がふんわりと漂い、鼻先をかすめて背後へと流されていく。


「つまり、その宗教法人は湊さんをミスキャンパスに祭り上げて将来有望な大学生を勧誘する道筋を作ろうとしてるってことか。更にミスコンを賭けの対象にして一儲けしようってことなんかな」

「そんなこと、本当にできるのかな」

「信者に関しては、ある程度の効果はあるかもしれんな。うちの大学で史上初のミスコンやろ。しかもこの大学におるようなオタク野郎共からしてみたら、日常生活では話も出来んようなかわいい子を自分たちが応援して優勝させるみたいな、いわゆるあれよ、アイドル育成ゲーム的なノリで盛り上がるかもしれん。そんなやつらをコントロールするのは意外と簡単やろ」

「しかも、湊さんはオタク男子受けしそうやもんなあ。きれいというよりかわいい系やろ。そんであの健気な感じ。アイドルっぽいもんな。実際、あれなら八百長無しでもグランプリ狙えそうには思うな」


 まあでも俺は苦手やけどな、あのタイプ。玲人君が苦々し気に付け加えた。たけやんが不安げに玲人君を見つめた。


「湊さんかわいいやんか。なんで苦手なん?」

「劇場型っぽいところかな。自分に酔ってる感じがする。まあでもこれは俺がそう感じるだけやから。お前は引き続きニヤニヤしとったらええわ。ああいういかにも女の子って感じ、好きやろ?」


 図星を指されたたけやんが顔を赤くした。しかしそこは素直な彼のこと、すぐに認める。


「かわいいな、思て」

「分かりやすいな」

「おいおいおい、なんや恋の予感か?」


 剣崎がやんやと囃し立てる。ひょろりとした足で踊るように先を行く剣崎の後ろを、玲人君とたけやんがふらりふらりと歩き、わたしと美都は腕を組んでそれに続く。


 一乗寺道を真っ直ぐ通って白川通りに出る。脂っこいものが食べたい時は白川通り沿いの天下一品か餃子の王将と相場が決まっている。


 こうして思いつくままに夜の街を歩いて好きなものを食べに行けるというのは学生生活の醍醐味だ。夜中に部屋で手持無沙汰にしていて、誰かがふと思いついて「なんか食いに行こうぜ」という瞬間がわたしはたまらなく好きなのだ。


 蛍光灯に白く照らされた部屋、気怠い雰囲気、一人ではない安心感と、いつまでもこうしてはいられないという焦り。停滞した部屋の雰囲気が、「なんか食いに行こうぜ」という一言でたちまち攪拌されて生気を取り戻す。まだまだ夜はこれからだ、と飛び起きてわたしたちは生き生きと動き出す。電車も車も使わないのに、京都の学生の背中には羽が生えている。

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