2-6

「真子の調子はどう?」


 兄が美弥子に訊ねていた。


「大丈夫だよ、もう書類も準備万端だし、ちゃんと出場するって言ってる。賭けの準備も順調に進んでる。真子ちゃんかわいいし、わたしたちが変な小細工しなくても全然いいところまで行くと思うんだけど」

「いいところまで行くだけじゃダメなんだ。優勝しないと金が入ってこない。それに、真子にはうちの法人の広告塔になってもらわないといけないんだから」 


 兄が激しい調子で言い、美弥子がそっと肩をすくめるのが見えた。


「真子ちゃんを騙してるみたいで気が重い」

「仕方ないだろ。もし本当のことを言ったらあいつは絶対に出場しない。これはもはや真子個人の話じゃないんだ。うちの法人の存続がかかってる。それに、考えても見ろよ。これは真子にとってもいいことじゃないか。ミスキャンパスの地位を手に入れて、信者たちからも称えられることになる」

「本人がそれを望んでいるとは思えないけど」

「言っただろう。本人が望むかどうかなんて、これはそんなレベルの問題じゃないんだ。うちの教団の未来のためなんだよ。大義のためだ。幹部以外の他の連中にも絶対ばれないようにしないと」


 兄の冷たい声を聞いて、真子は思わず胸に手を当てた。全力疾走した後みたいに脈が速くなっているのが分かる。耐え切れなくなり、そっとその場を後にした。

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