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「兄は」
言いかけて湊さんが困ったように口をつぐんだ。どう表現すればいいのかと迷っている様子が見られる。
目の前のデスクに玲人君がそっとグラスに入った麦茶とお茶うけのクッキーを置いた。さすが、出来る男。どこに出しても恥ずかしくない、と太鼓判を押してあげたい。なんですずめ荘みたいな吹き溜まりにいるんだろう、と思いかけていやいや、むしろここは玲人君が借りている部屋じゃないかという事実に思い当たって心の中で玲人君に手を合わせた。
湊さんも上目遣いに玲人君に軽く目礼をして麦茶のグラスを取り上げた。肌の白いきれいな手にうっかり見とれていると、彼女は麦茶を一口飲んでからまた話し始めた。
「兄はどちらかというと権力志向で、実家が宗教法人であるということも自分にとって都合がいいと思っている節があります。父も母も来るもの拒まず去るもの追わずでやってきたので、そんなに信者さんの数は増えなかったんですが、兄はこれからはもっと信者の獲得に力を入れるべきだ、と」
「信者が多い方が儲かるもんな」
剣崎が身もふたもない言い方をする。湊さんはこくり、と頷いた。
「兄には幼なじみがいて、その幼なじみも古くからの信者さんのおうちの方々なんですが」
どうも湊さんのお兄さんもその幼なじみも、少々過激な思想の持主らしい。今まで通りの去るもの追わずの運営では信者が他の団体に流れてしまう、ここはもっとなりふり構わず積極的に信者を囲い込むべきだといきまいているという。
「もっと悪いことに、最近兄たちは怪しげな人達ともかかわりがあるようで、信者さんに高額な品物や薬品を売りつけたり、お布施と称してお金を納めさせたりしているようなんです。なんだかどんどんとおかしな方向に行ってしまっているみたいで…」
湊さんが声を震わせて俯く。金と権力のにおいがする場所にはならず者が集まるものである。湊さんのお兄さんたちに入れ知恵をしている者がどれくらい危険なのかはわからないが、穏やかならざる話ではある。
「ここまでの話は分かったけど」
たけやんが当惑しながら口にする。
「ごめん、それがミスコンとどうつながるのか分からん」
そうですよね、と湊さんがちょっと大げさなくらいに恐縮する。
「すみません、話が下手で。えっと、美都さんと蒼依さんはミスコンの運営にかかわっていらっしゃるということなので、柏木さんをご存知ですよね」
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