1-6

「なんやかや言うて、彼女おらんままもう二回生になってもうたからな。ここらでなんとか、いい出会いがないかな思てな」

「彼女て」


 嬉々としてまぜっかえそうとする剣崎の腹にわたしは渾身のパンチを見舞った。いってぇ、と大袈裟に腹を抱えて蹲る剣崎を尻目にたけやんに向き直る。


「いいと思う。たけやんこんなにいい人なんだもん。絶対にいい彼女ができると思う」


 うんうん、と玲人君と美都が頷く。

 おおきに、とたけやんが目を細めた。そうやって笑うと恵比寿様みたいに見える。


「あたしはな、一度でいいから主役になってみたいな」


 そういう美都は、ぺちゃんこの鼻の上に銀縁の眼鏡がちょこんと乗っかっていて、ふわふわと柔らかい髪の毛は押し付けても押し付けても色んな方向にぴょこぴょこと飛び出している。おばあちゃんが編んでくれたみたいなセーターからぽんぽんがついた紐が二本、ぷらんとぶらさがっている。


「ほら、あたし基本わき役だからさ。学芸会とかでも猿蟹合戦の栗の木とか浦島太郎の竜宮城のウニとか。一度でいいから、スポットライトを浴びて主役をやってみたいなって」


 にひひ、と笑って見せる。聞いているこっちが切なくなってきた。竜宮城のウニとは。剣崎がふふんと鼻で笑い、玲人君はなんとも形容しがたい慈愛に満ちた微笑を浮かべた。


「でも蒼依の言う、大学生活このためにあったんだーっていうほどのなにかってなんやろな」


 改めて尋ねられてわたしは考え込む。


 その後は、「俺は金儲けがしたい」とか「俺は心穏やかに過ごしたい」とか、最早それぞれが当てもない願望を述べるだけの時間が延々と続いて、やがて夜は更けていった。ベッドにもたれかかってまどろんでいると、眠気の向こうから剣崎の声が聞こえた気がした。


「言うても人生なんか壮大な暇つぶしや。お前らがじたばたあがいたところでそんなもんはな、骨折り損のくたびれ儲けやって」


 骨折り損のくたびれ儲け。その言葉はまるで呪いの言葉のように耳にまとわりついてしばらく離れなかった。


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