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そんなやりとりをしながらも、剣崎が絶対にこの部屋に入り浸るのをやめないことをみんなが知っている。もちろん、わたしたち自身も。サークルにも属しておらず大学にも必要な時以外足を運ばないわたしたちにとってこの部屋は自堕落な生活における拠り所であり、休憩所であり、試験前の避難所でもあった。
こんなに小さな部屋が、こんなにも多くの役割を果たしていることを考えると、これは部屋も冥利に尽きるんじゃない?と下らない考えが頭をよぎる一方、それに比べてわたしは…と頭を抱えたくなる。
ちなみに、後に社会に出てから他の大学の学生たちは実際に毎日大学に通っていたのだという事実を知って、わたしたちはうちのめされることになる。みんな、大学行ってたんだ!?
大学時代ほど、その人の人生に対する姿勢が試される期間はないと思う。時間は無限にあるかのように思われ、かといって十分に判断力もつく年齢に差し掛かった学生達にああしろこうしろと煩く指図する大人もいない。自由、と言えば聞こえはいいが、所詮大した志もないわたしたちのような学生にとって自由とはいかにも荷が重いものなのだ。
なんでもできるはずなのになんにもやりたいことがない。これをもって大学生のジレンマと名付けたい。
「なんか、やりたいな」
思わず呟いた言葉が、狭いワンルームにぽつんと転がった。他のみんなは、それがまるでいきなり部屋に放り込まれた不発弾であるかのように、一瞬緊張して黙りこくった。
「なんか、とは?」
美都が恐る恐る口を開く。
「なんか、記憶に残ること。青春だなーって感じられることとか、ああわたしの大学時代はこのためにあったんだって思えるような」
「サークルでも入ったらええんちゃう?」
「習い事するとか?」
「俺やったらやっぱり彼女が欲しいな」
夢見るように言ったのはたけやんだ。大学生のくせに、新卒で入ったメーカーで管理職にまで上り詰めた気のいいおっさんみたいな見た目をしている。剣崎はいつもたけやんの髪が薄いのをからかっていて、でもたけやんはそんな剣崎の面倒を嫌がらずに見ているから本当に偉い。
酔っぱらって正体を無くした剣崎を四条まで迎えに行くのも、剣崎が一度も受けたことのない講義のノートをどこからともなく調達してきて単位ぎりぎりでなんとか留年させずにここまで引っ張ってきたのも、全部たけやんのなせる業である。
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