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「なんか、とは?」
西部構内のカフェテリアの喧騒の中、素うどんをつるつるとすすりながら同じ法学部の友人である吉本小百合が上目遣いでこちらを見つめた。
あれ以来、わたしの「なんかやりたい」熱は収まりきらずにことある毎に溢れ出しては周りを辟易させている。すっかりこの話題に飽きてしまった剣崎はあれ以来、「なんかやりたいなら一人でやれ」とすげないし、「ボランティアとかええんちゃう」とたけやんは言うけど、いざ探そうとしてみるとこれがなかなか難しいのだった。
昼時のカフェテリアは混みあっていて、明らかにサークルの仲間同士に見えるグループがきゃあきゃあと嬌声を上げているテーブルがあるかと思えば、一人で黙々と参考書を読みながら食事を掻き込んでいる人もいる。ここにいる人たちのうち、どれくらいの人が胸を張って「なにか」を成し遂げたと言えるんだろう。
「常に変な焦りがあるの」
言葉を選び選び、心の中に浮き上がる想いをなんとか伝えようと試みる。
「歳を取っていくことへの焦り。例えば、十三歳で独り立ちする魔女の女の子の映画があるでしょ?ああ、素敵だなって思って観るんだけど、ふと、あ、わたしもうあの主人公の年齢過ぎてるんだなって思うの。十歳過ぎたら偶然宝の地図を見つけて冒険に出ることもできないし、十三歳過ぎたら箒に載って新しい街に行くことが出来ないし、そうやって一歳歳を取る毎にもしかしたら自分にも起きたかもしれない楽しいことが本当に起きるかもしれない可能性が狭められて行くような気がして」
伝わったかな?という想いを込めて目の前の小百合を見つめると、彼女は起きたかもしれない楽しいことが本当に起きるかもしれない、という言い回しに閉口したようであった。要はすっかりドン引きしていて、一言「それは、難儀ですなあ」と言った。
「いっつもそんなこと考えてんの?」
「いやさすがのわたしもいつもは考えてないですよ。でも誕生日が来るとどこかで、ああ、好きな物語の主人公たちの歳を超えちゃったなあ、とは思うかな」
「まあでも十歳だろうが十三歳だろうが、人は普通、宝の地図も見つけられないし箒で空も飛べないけどね」
「だからそれはただの例えだってば」
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