ラッキー7

赤城ハル

第1話

 向こうにはラッキー7だったが、こちらにはアンラッキー7だった。

 6回まではこちらが圧勝だった。

 けれど7回裏で逆転された。

 しかもその後すぐの8回表は0点で、最後の9回は7番からのスタート。さらに相手は左投げのクローザー。

 相性は最悪で三者連続三振で試合終了。

「最後は甲子園行きたかったな」

 キャッチャー西脇が誰ともなくぽつりと呟く。

「そうだな」

 相方の俺が言葉を拾い、返す。

「甲子園の砂欲しかったな」

「行きたかったな」

 こうして俺たちの高校最後の夏が終わった。


  ◯


 それから23年後、俺は今、アルプススタンド席に座っている。燦々と太陽は俺たちに日を浴びせ、座っているだけで汗を流させる。

 それでも俺たちは負けずに応援をする。

「このままなら行けるかしら?」

 妻が俺に聞く。

「まだ分からんぞ?」

「え?」

 吹奏楽部の応援で聞こえなかっただろうか。

「まだ分からんぞ」

「もう! そんな大きな声で言わないでよ」

「聞こえてたのか」

「なんで分からないのよ。3点差よ。次はラッキー7よ」

「それは向こうも同じ。入れられたらアンラッキー7だ」

「そりゃあそうだけど」

 妻としては大丈夫と言って欲しかったのだろう。

 でも、野球経験者として、いや、ここぞというところでラッキー7で負けたものとして私は大丈夫とは言えなかった。

「8回ツーアウトまで分からんと言うしな」

「ちゃんと応援してよね」

 不満そうな顔をして妻はハンカチで汗を拭う。そのべったりの塗った化粧の顔に。

「分かってるよ」

 俺の代わりに甲子園に行ってくれたんだ。応援しない親がいるかよ。

「あの子達、すごい応援してるわね」

 と妻が指差すのは高校のチア、応援団、吹奏楽部の子達。

「わざわざここまで来てもらって感謝しかないわね」

 なぜかその言い方が「あんたはもう少し彼らを見習って、ちゃんと応援しなさいよ」と言っているように聞こえた。

「メガホン持ってくれば良かったか?」

「やめてよ恥ずかしい」

 どっちなんだよ。まったく。

 俺は心の中で苦笑した。

「そもそもなんでラッキー7なの?」

「知らん」

「野球経験者なのに?」

「語源なんて知らんよ」

「たぶんどっかのメジャーリーガーが言ったとかじゃねえのか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ラッキー7 赤城ハル @akagi-haru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ