第104話 代償はやはり、止まない通知、そして報酬と特別ボーナス



「やっと、終わった……」



 それを心の底から実感した瞬間。

加速アクセル】の効果が切れると同時に【修羅属性】のスキルも、ほぼ無意識的に解除していた。


 体中、それでも痛くて痛くてしょうがない。



「あっ――」   


 

 そして全身から、ふっと力が抜けていく。

 糸か何かで引っ張られるように後ろ向きへと倒れていくのを、他人事のように認識しながらボーっとしていた。

 

【時間魔法】×【修羅属性】の全身激痛フルコースの中。

 新たな衝撃でも加わったら、もしかしたら玩具おもちゃのようにバラバラになってしまうかもしれない。 


 そんな想像をしつつも、一方でそれをどうこうする気力もなく。


 ……まあ、いいや、もう終わったんだから、どうなろうと。 



「っ!? ――マスターっ!」


「ご主人様っ!」


「だ、大丈夫です!? あ、あるじさん!」



 ――だが、体を激しく床に打ち付けるということは無かった。



 聞き慣れた声が、しかし聞き慣れない緊迫感をもって急速に接近。


 ボフッと。

 崩れ落ちる前に、誰かに抱き留めてもらったらしい。



「リーユっ! 今すぐ治療を!!」


「は、はい! ――主さん、しっかり!」

  

 

 真正面からリーユがしがみつくようにして乗って来る。


 重さを感じないのはリーユが軽いこともあるだろうが。

 そもそも体が流石にヤバくなってるのかな、なんて考えたり。



「……あれっ、えっ!? 回復速度、中々、上がらない、です。何かが回復を妨げてる、感じで、うぅぅ~!」


「リーユも、しっかり! リーユなら、あなたなら出来るわ!」



 頭、後ろからアトリの声が。

 ……なるほど。

 後ろからハグして支えてくれてるのはアトリさんでしたか。


 ごめんね。

 今、後頭部に当たるアトリさんのダブルパイセンを楽しめる状況じゃ全然なくて……。

 


「ご主人様……」


「――だ、大丈夫ですよソルアお姉さん! ……えっと、そうだ! 【ヒール(小)スクロール】残ってましたよね!? 使いましょう!」 


「もちろん! ――透子さんっ!!」


「ええ! ――滝深君、しっかり!」



 手を握ってくれているらしいソルアに、大丈夫だと伝えるように笑顔を作る。

 ……おーい、誰か気づいてー。


 水間さんも、もっと冗談言っていいんだよ?

 いつもなら“うわっ、リーユちゃん対面座位とアトリお姉さん座椅子のサンドイッチだ!”とか言ってオッサンみたいに盛り上がってるでしょうに。



 だが、そう声を出すことすら辛い状況なのは確かだった。



「……主さん、主さん」


  

 そんな中。 

 リーユがずっとくっつき続けてくれることで、大分楽になって来た。

 触れる先から、温かいエネルギーが体にじんわり送られてくるのを実感する。


 ……やはり治癒の力を持つリーユと可能な限り接触していることに、とても大きな意味があるらしい。 

 それも、触れる面積は大きければ大きい程良い、ということか。



「……うっ、うぅぅ。――ありがとう。大分マシになった」


 

 スクロールを使ってもらったのもあり。

 声を出しても体が悲鳴を上げないくらいには回復できた。



「あっ! ――良かった、良かったです。……主さん、中々、回復しなくて。体の内側、相当ボロボロで」          

  

 涙声になりながらも、リーユは喜んでくれた。

 それで峠を越えたとわかったように、皆からも安堵した様子が伝わってくる。


 リーユの力でも回復ペースが殆ど上がらないって……。

 やっぱり体、かなりガタが入ってたようだ。


 単にダメージが大きかっただけでなく、“【修羅属性】によって負ったダメージ”という点も無視してはならないだろう。


 ……やっぱり、軽々に使えるスキルってわけじゃないんだなぁ。

 


<ワールドクエスト領域内でのボス討伐を確認いたしました。ただいまより“経験値獲得”、“Isekai獲得”、そして“パーティーポイント獲得”の制限により蓄積されていた分を解放いたします>


 

 ぼんやりとする意識で回復を待つ中。

 その通知をきっかけに、新着欄が次々と更新されていたのに気が付いた。



□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□




<レベルアップ! ――Lv.11→Lv.12になりました。 詳細:HP+2(冒険者 →+3) (魔術師 →MP+2) 筋力+1 (冒険者 →耐久+1) (魔術師 →魔力+2) (魔術師 →魔法耐久+1) 器用+1 容量+1(ガチャ師 +1→+3)>  


<レベルアップ! ――Lv.12→Lv.13になりました。 詳細:HP+2(冒険者 →+3) (魔術師 →MP+2) 筋力+1 (冒険者 →耐久+1) (魔術師 →魔力+2) (魔術師 →魔法耐久+1) 器用+1 容量+1(ガチャ師 +1→+3)>

<レベルアップ! ――Lv.13→Lv.14になりました。 詳細:HP+2(冒険者 →+3) (魔術師 →MP+2) 筋力+1 (冒険者 →耐久+1) (魔術師 →魔力+2) (魔術師 →魔法耐久+1) 器用+1 容量+1(ガチャ師 +1→+3)> 



<【身体強化】レベルアップ! ――Lv.3→Lv.4になりました。 詳細:筋力+15→+25 敏捷+15→+25>

  

<【身体硬化】レベルアップ! ――Lv.2→Lv.3になりました。 詳細:耐久+35→+55>


 


 ステータス上のレベルアップに続いて、スキルのレベルも目で追えない程上がっていった。


 ただこの解放がされる前、【危険察知】のレベルは普通に上がっていたはず。


 つまりスキルレベルについては、貯まっていたものが解放されたというより。

 単にボス戦を通じて、熟練度が一定値まで達したということだろう。




<アーミースパイダーを討伐しました。55Isekaiを獲得しました>  


<アーミースパイダーを討伐しました。55Isekaiを獲得しました>  


<アーミースパイダーを討伐しました。55Isekaiを獲得しました>  


<ブラッドスパイダー①を討伐しました。472Isekaiを獲得しました>


<ブラッドスパイダー②を討伐しました。544Isekaiを獲得しました>



<狂乱のブラッドスパイダー⑦を討伐しました。2653Isekaiを獲得しました>



 獲得Isekaiについても、一目では把握しきれない程になっている。



「……お~凄いな。これ【クエスト報酬】とは別の、討伐自体の“Isekai”ってことでしょう? 俺、大金持ちだわ」 


 

 これだけでも元の2000Isekaiに足して10000Isekaiを超えてしまったぐらいだ。 

 


「あっ、こら! お兄さん、もうしばらく安静に、ですよ?」


 

 むぅ~。

 別に指を動かしてるだけなのに、水間さんに見つかり怒られてしまう。 



「もう少しリーユちゃん対面座位でじっとしててください。……あっ、そうです、アトリお姉さんのバックハグ、もうちょっと拘束強くお願いしますね。――後頭部に当たるダブルパイでエッチな気分になったら退院を許可します」



 あっ、やっぱり言いやがったこの子。

 ……いや、流石にもう羞恥心は出て来たよ。


 だが解放してくれる気は無いらしい。

 水間さんはもちろんのこと、アトリやリーユ、そして右手を握り続けてくれるソルアもだ。

  

 ……うぅぅ、普通に恥ずい。


  

「あ、あはは。……えっと、その、あれですね。パーティー内でだけでも。他の生存者サバイバーの人の通知とか、見られれば楽なんですけど」


 

 見てる側も何か感じるものがあったのか。

 来宮さんは頬赤く視線を逸らしながらも、気を使った内容を口にしてくれる。



「うーん。私は別に問題ないけど。【パーティー】を組んだとしても見られたくない情報は人それぞれあるだろうしね。……それか“パーティーレベル・ランクに応じて機能が解放されていく”、とかなら面白そうだけど」


 

 久代さんが触れたのをきっかけに、話題は【パーティー】全般に及ぶ。

 


「ポイントも凄く沢山入りましたしねぇ~。……私なんて、透子さんより与えたダメージ絶対少ないだろうに。一気に8つもパーティーレベル上がりました」


「あたしもです。盾で守ってただけなんで、ダメージ量では最下位だと思うんですが……すいません」


「“ダメージ”だけが絶対の基準じゃないんじゃない? 戦闘への貢献度とか何かよ、きっと。証拠に、私も8レベル上がったわ」



 ……なるほど。

 つまり【パーティー】機能、久代さんの恩恵である【筋力値】も8プラスしてもらえる、と……。


 ふ~ん――



「――滝深君? 今何か想像したかしら?」



 ヒィッ、殺気!?

 美人がえるとても素敵な笑顔の裏に、なんていう威圧感だ。

 

 これは即時の戦略的撤退もやむなし!



「いや、久代さん、凄く素敵な笑顔だなって! うん、やっぱり久代さんほどの美人の笑顔は見てて癒されるよ。あ~傷が癒えるな~」



 命懸けだとここまでスラスラ口が回るのかと、我ながら新たな発見に驚くばかりだ。

 だがこの程度のお世辞など、久代さんクラスの美人なら聞き飽きるくらい耳にしているだろう。

  

 だから逆効果か、とも一瞬思ったが――



「……絶対、嘘よ。どうせまた“【筋力値】が~”とか“久代さんは筋肉が~”とか、考えてたくせに」

    

 

 意外にも。

 久代さんは怒りの矛をサッとおさめてくれた。

 

 ただ顔は赤いまま、プイッと横を向かれてしまう。

 ……考えていたことをズバリと言い当てられているので、やはり不満は不満だったのかな?


“怪我人相手に言い合うのも”と、大人な対応で引いてくれたって感じか。

 

 

 ……まあその仕草自体も普通に可愛すぎるけどね。

 美人はやっぱり何をやっても絵になるな、クソっ。

 

 

□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□


・ 


=====


23 差出人:【異世界ゲーム】運営


件名:真ワールドクエスト“狂乱のブラッドスパイダー討伐”のクリア報酬贈呈


TOKI 様


おめでとうございます。

3日目終了までに、運営配布のワールドクエストをクリアなさいました。


他の生存者サバイバーの皆様が非常に苦戦されてる中、しかも“真”ワールドクエストの条件を満たした上でのクリア。

見事という他ないくらい素晴らしいご活躍でした。


クエストのクリア報酬を贈呈します。


また先のメールでも申し上げたように、特別ボーナスもご用意しております。

こちらは“共通報酬”の他、“4つの選択報酬”となっております。

メンバーの方々と一人一つとなりますので、話し合いなどの上、誰がどれを選ぶのかお決めください。


TOKI様のゲームでの生き残りと更なるご活躍を、運営一同で願っております。



報酬

①3000Isekai 

②マナスポット

③特別ボーナス

→共通報酬:【特殊施設の権利書】×4 

 選択報酬:お金の箱×1 武器の箱×1 防具の箱×1 生物の箱×1 


=====   




「あっ――」



 3000Isekaiが、自分の手持ちへ追加されるのとほぼ同時に。

 目の前に【マナスポット】と。

 そして4つの宝箱が出現したのだった。


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