第68話 偵察組の出発、そして駐車場の様子



「っし。じゃあ、ファム。準備は良いか?」


≪うん! ご主人にとっても気持ちよくしてもらったからね! 元気一杯だよ!≫



 ホテルのフロント。

 ファムは相変わらず、他の人に聞こえでもしたら誤解を生みそうな言い方で答えてくれた。


 ……いや、MP注入して機能を追加しただけな。




[魔導人形ファム 追加機能の候補一覧]

 

①視覚共有……10MP ※【索敵】から要素獲得 ……取得済み○


②聴覚共有……10MP ※【索敵】から要素獲得 ……取得済み○


③付与魔法……30MP ※【身体強化】+【○○魔法】から要素獲得


④MP上昇 ……10MP ※【MP上昇】から要素獲得 ……取得済み○

 MP上昇Ⅱ……15MP ※④と⑨が必要 ……取得済み〇(New!) 


⑤回復魔法……30MP ※【状態異常耐性】+【○○魔法】から要素獲得 ……取得済み○


異空間室ディメンションスペース……100MP ※【時間魔法】+【セカンドジョブ】+【操作魔法】から要素獲得

【セカンドジョブ】と【操作魔法】の要素により【時間】要素を変質……隣接概念【空間】へと変質成功


⑦フェアリーシールド ……50MP ※【身体硬化】+【○○魔法】から要素獲得……取得済み○


⑧筋力・魔力上昇 ……10MP ※【火魔法】から要素取得 ……取得済み○

 筋力・魔力上昇Ⅱ ……15MP ※⑧と⑨が前提 ……取得済み〇(New!)


⑨取得済み機能 1段階レベルアップ……各取得済み機能の性質に依存




【マナスポット】の獲得により追加された⑨を前提に、④と⑧を1段階レベルアップさせた。

 おかげでMP・筋力・魔力が更に上がっている。



[ステータス]


●能力値


MP:29/69→41/81 (※パーティー補正+7→48/88)

筋力:43→55 (※パーティー補正+5→60) 

魔力:34→46 (※パーティー補正+7→53)



 筋力がとうとう50を超えた。

 俺も、誰かさんのことを言えない数値だな……。



「元気なのは良いが、偵察、気をつけてな」


≪うん、任せて! じゃあ行ってきます! ――ほらっ、フォン、行くよ≫

  

「GRLLLL!」 



 ファムの声に答えるように、フォンはその翼と前足を大きく動かす。

 これが大人のグリフォンへと成長すれば、さぞかし迫力ある光景になるだろう。



「おう、いってら~」



 ファムとフォンが外へと飛んでいくのを見送り、再びホテルの室内へと移動。

 その間にもファムとの視覚共有は怠らない。


 小さな脳の疲労感が少しずつ蓄積していくような感覚はあるが、これは必要なことだと割り切る。



「――あっ、ご主人様。お帰りなさいませ」



 部屋の扉を開けると、ソルアが笑顔で出迎えてくれた。

 ……うん、なんか良いな。


 自分の帰りを、美少女が部屋で待っててくれる。

 なんだか言葉では言い表せないような高揚感が、内から次々と湧いてくるような気がした。

 


 ……まあここ、ラブホなんだけどね。

 そこは、ほら、うん、気にしない気にしない。



 だが一度そのことが頭をよぎると、どんどん勝手に想像が膨らんでしまう。


 ソルアは神官剣士だという。

 つまりは神聖な場所で職務を務めてきた、極めて清らかな存在だ。


 そんなソルアが、ラブホの部屋で、しかも自分を待ってくれていると考えたら……。

 

 ……うん、それだけなのに、凄くえっちいと思いました。 

 

 

「? いかがなさいましたか?」


「いや、何でもない」



 不審に思われないよう、早々に思考を打ち切る。

 ソルアの後に続くようにして室内に。



「お帰りなさい、マスター。どう? その後、変化はあったかしら?」



 中に進むと、アトリもすぐに気づいてくれた。

 そしてアトリ以外の皆も揃っている。



「ああ。ファムたちは……うん、まだ飛び始めたばっか。【施設】の通信の方は、その後何も来てないな」



 公衆電話にあったとされる【施設】を利用して、持ちかけられた協力の要請。 

 その交渉はついさっき打ち切ったばかりだ。


 もしかしたら時間を置かず再度の接触があるかとも思ったが、今のところは音沙汰なし。


 きっぱりと拒絶の意思を示され、無駄だと諦めたからか。

 あるいは、連続して使えない理由でもあるのか。


 どちらにせよ、しつこくされないならそれに越したことはない。



「あっ、お兄さん。……その、すいません。お先に、お昼、食べちゃってます」



 水間さんは少しバツが悪そうというか、申し訳なさそうに謝罪してきた。

 手に持つのは、コンビニで調達したカロリーバーだ。



「いや、先に食べておいてって言ったの、俺だから。それに今後も同じことが何度もあるだろうし、一々気にしなくていいよ」  


「そうですか……はい、わかりました。ありがとうございます」 

   


 水間さんって、こういうところは真面目というか、律儀だよなぁ……。  

 


「――お帰り、滝深君。ルーズリーフと書くものは用意しておいたから」


 

 久代さんはアトリと並び座って、ちょうど栄養ゼリーを吸引し始めていた。


 ……なんか二人ともその吸う仕草、凄いエロいな。

 特にアトリさん、唇をちょっと突き出すようにしてくわえる感じは……色々とヤバいですぜ。 


 10秒チャージとはよく言ったもので、アトリは10秒かそこらでその中身を吸い尽くしてしまう。

 ……10秒で、そのお口で、吸い尽くす――


 ――っていやいや! エロいことをするために集まってるんじゃないんだ。ピンク色の思考は早急に追い出さねば。

  


 ……何だろう、ここがラブホの部屋だから変に意識しちゃってるだけかね?

 気にしないようにしよう、うん……。


 

「……っす。ありがとう。じゃあ――」


≪――ご主人っ、そっちも見えるかな? 目的地、見えたよ!≫




 タイミングよく、ファムの声がした。


 同時に、ファムと繋いでいる視界にも広大な敷地と。

 そして、その中に建っているショッピングモールが映ったのだった。 

 

  

□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□  



「……見えた」



 ただ一言。

 それを口にするだけで、室内の雰囲気が一気に締まった気がした。

 

 皆がそれぞれ良い緊張感をもって、臨もうとしていると伝わってくる。



「広い駐車場……車はどれもこれもボロボロだな……」



 ファムからもたらされる映像情報を、同時通訳的に見たそのまま言葉にしていく。



「確か、2800台分のスペースがあるはずです。屋上や立体駐車場も合わせて、ですが」



 来宮さんから補足情報がもたらされる。

 それらを踏まえて水間さんが、紙に概略図を描いていった。 



「――あっ、普通にモンスターいるな。……芋虫型が沢山。偶に空中にははちみたいなやつもいる」



 ボスが蜘蛛、つまり虫関係だからか。

 ショッピングモールのエリア内には虫系統のモンスターが多数見受けられた。



 ――あっ、おい、ファム、大丈夫か!? 蜂のモンスター、ファムに気づいてんぞ! 



 尾部に大きな針を有した蜂が、ファムの視界へと接近。


 ラグビーボールの倍以上はあるだろうゴツい体をしている。

 ファムに気付いた敵が襲ってきているのだ。

  


≪あぁ~うん。でも大丈夫だよ、ご主人。だって――≫


『――GRIFAAA!!』



 視界の外から、いきなり何か大きな存在が割って入って来た。

 そして大きな爪で蜂を鷲掴み、頭からガブリ――



 ――あっ、フォンっ!



≪ふふふっ~! 持つべきものは、頼りになる後輩だね!≫



 そうか、フォンは護衛としてちゃんと頑張っているんだな。


 

<従魔“グリフォン”がポイズンビーを討伐しました。42Isekaiを獲得しました>


<従魔“グリフォン”がポイズンビーを討伐しました。パーティーポイントを4P獲得しました ※リーダーを務めているため、獲得ポイントが7Pになります>  



 フォンが護衛としての実力を示したからか。

 それからは、飛行系の虫モンスターがちょっかいをかけてくることはなかった。



 改めてゆっくりと、平面駐車場の様子を見て回ってもらう。

 車が集中して停めてあっただろう場所、完全に空いている所、あるいは駐輪場辺り。


 それらすべてに、ほぼ等間隔でモンスターが存在していた。

 


「うへぇぇ~女の敵みたいな場所と化してますね」



 水間さんはうんざりしながらも、簡易の地図に情報を書き足していく。

 やっぱり女子にとって虫は天敵だろうからねぇ。



「そうだねぇ~。右も左もむしだらけ。全部と戦闘ってのは現実的じゃないから、どうにかして無視むしできないかな――あっ」



 来宮さんが、自分で自分の言葉にハッとする。



「い、今のは違くて! 別に“虫”と“無視”をかけて、ウケを狙ったとかじゃなくて!」


「? そうなのですか? 私はハルカ様のお言葉、面白いと思いましたけど」



 ……ソルアさん、今は何を言っても来宮さんには慰めにならないと思うよ?


 むしろ“フフッ、ハルカ様ったら。必死になって笑いを取ろうとなさって。お可愛いこと……!”的な意味に取られるかも。



「はぅぅ~……」



 ほらねっ。

 来宮さんは羞恥心に耐えかねたかのように、耳を真っ赤にして俯いてしまった。

 ……今はそっとしておこう。



「ふぅ……滝深君――妖精さん達に先行して偵察してもらうだけでも。全然違うわね」   

  


 水間さんが書き足して充実させていく地図を見て、久代さんは嬉しそうに言う。


 

「ああ。ぶっつけ本番よりも、事前に情報収集して向かった方が、心構えも準備も全く変わってくるだろうから」



 久代さんに応じながら、自分でもこの下準備がとても大きな意味を持つと実感していた。


 クエスト終了まで時間がないなら、今ある物資と情報だけで向かわねばらなかった。

 しかし、実際には大体12時間あったのだ。

 

 また、俺たちはどこにボスが出現しているか。

 そしてそのボスの弱点が何なのかを既に知っている。


 これもまた【施設 情報屋】での下準備が功を奏した形になる。

 おかげで心に大きな余裕をもって、ボスのいるダンジョンと化したショッピングモールの調査ができるのだ。

  

 

「思ったよりも、モンスターからの妨害も少ない。まだ外・駐車場部分だけだが、偵察はかなり順調だ」



 ……あぁ、そうだ。

 余裕ができた今の内に、1回でもやっておくか。 



 ――そう、【異世界ガチャ】の3日目イベントガチャを。



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