第66話 クエストの詳細、物資は現地調達で、そして思わぬ展開


<新たなメールを受信しました。新着メール:1件>



 メールだ。

 時刻は12時ジャスト。


 つまり今度は報酬などではなく、クエストに関する知らせだろう。




=====


21 差出人:【異世界ゲーム】運営       



件名:ワールドクエストスタートのお知らせ



 生存者サバイバーの皆様。

 3日目、12:00となりました。


 ワールドクエストの開始時刻となりましたことをお伝えいたします。


 ただ今より各地に、ボスモンスターが出現いたします。

 本日3日目終了までに、それぞれ皆様が所在する地域に出現したボスモンスターを討伐して下さい。


 参加条件はパーティーランクG+以上となります。


 ボスモンスターを討伐できればクリアです。 

 3日目終了時点までに、その地域のボスモンスターを討伐出来なければ失敗となります。 

 

 このメールの後、パーティーメンバー一致で参加意思の表明を行えば、参加登録が完了となります。

 

 皆様のふるってのご参加を心よりお待ちしております。 



●ワールドクエスト“ボスモンスターを討伐しよう!”


■クエスト詳細:

 TOKI ……地域L 


 クリア条件:ボス“ブラッドスパイダー”を討伐

 失敗条件:3日目終了時点でクリア条件を未達 



■参加条件:

 パーティーランク:G+以上 



■報酬:

 討伐パーティー

①3000Isekai

②【マナスポット】


 他の参加パーティー

 クエストクリアの貢献度に応じて分配


■失敗時

①当該地域のボスモンスター1ランク強化

②当該地域のモンスター数が倍  

 

=====



「あっ、“スパイダー”! 皆さんの言った通り、蜘蛛クモですよ蜘蛛!」



 水間さんはいち早く読み終わったようだ。 

 共有したボス情報と合致していると分かり、興奮気味に“蜘蛛”という単語を連呼する。



 ……可愛い女の子が嬉しそうに“蜘蛛だ蜘蛛だ!”っていう光景も、なんかシュールだな。

 


「……えっ? ――ちょっと待ってください! これ、クエスト、失敗時にペナルティがあるってことですか!?」 



 来宮さんが珍しく驚いたような声を上げる。


 誰に尋ねたともなく。

 ただ純粋に自分の見間違い・考え違いを期待しているかのような、そんな声だった。



「……本当ね。しかもこれ、参加しようがしまいが、結局ボスを倒せなかったら皆等しく罰があるってこと?」


  

 久代さんの深刻そうな言い方も、やはり思い違いであって欲しいというようなニュアンスが含まれていた。


 だが何度読み返そうと、書かれていることは一文字たりとも変わらない。

 


「どっちにしろ、俺たちは参加するって決めてたからあんまり影響はないけど……」


「……参加しないと決め込んでいた生存者サバイバーの方々は、大変でしょうね」

 


 ソルアの言う通りだ。

 今頃このメールを読んで、心底不安で一杯になっているだろう。


 

「これじゃ、他の生存者任せにしてクリアされなかったら、4日目以降はさらに地獄ですもんね」

 

「まあ、私たちはそれでも生きられるでしょうけど」

 


 アトリはそういうが、モンスターの数が今の倍に増えるなんて、想像するだけで嫌になる。


 より多くの生存者にクエストへと向かわせるための仕掛けなんだろうが。 

 本当、運営はやることなすこと全てがいやらしいな……。



 その後、確かに参加意思を問われる通知が届き。

 久代さん、来宮さん、そして水間さんと全員一致での参加を改めて決めたのだった。



□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□



「――で、どうしましょう。“炭酸飲料”なんですよね? ボスの弱点」



 改めて水間さんが確認してきた。

 

 その手は、部屋にある3つの冷蔵庫の内の1つにかかっている。

 エッチなアイテムが入ってるのじゃなく、普通の冷蔵庫の奴だ。



「いや、現地調達でよくないか? ……それとも、これから全部の部屋に回って、炭酸飲料を回収して、持っていく?」



 フロントに行って、先ずは鍵をすべて回収。

 部屋を一つずつ開けていき、冷蔵庫を破壊する。

 コーラなど、炭酸飲料をそうしてゲット。


 全部を荷物に入れて、いざショッピングモールへ――



「……手間よね。“筋力”の能力値が上がってるとはいえ、凄く荷物にならないかしら?」


「俺も、久代さんの意見に賛成だ。それに……来宮さん」



 一番利用した経験がありそうな来宮さんに意見を求める。


 ……いや、ラブホのことじゃなくて。 

 ショッピングモールについて、だ。



「えっ? あ、はい。何ですか、滝深さん?」


「あそこのショッピングモール、確かプライベートブランド売ってなかったっけ? だから他のメーカーの物以外にも、炭酸のジュースが沢山あったと思うんだけど」


 

 俺もあそこを利用したことは何度もあった。

 だが食料品売り場に長々といたことはないため、地元民の話が欲しい。

 

 ……ごめんね、デートの定番スポットに一人で行ったことしかなくて。



「あっ、ありますね! 1本税込みでも40円しないくらいの。サイダーとかコーラとか、後はオレンジソーダとかが、結構置いてあったはずです」



 なら、決まりだな。

 仮にあそこを拠点として生き残っている人たちがいたとしても、だ。


 流石に3日で炭酸飲料を全部飲み切るとは想像し辛い。



「まあ無かったらその時はその時だ。幸い、これからクエスト終了までは12時間ある」



 一度撤退して立て直すことも十分に可能な制限時間だ。

 その間に改めてまた持っていくかどうか決めればいい。



「それに、弱点は“炭酸飲料”だけじゃないしね。……案外1つ目の弱点だけでも倒せたりするかもしれないし」


「……そうですね。かなでちゃんも仲間になってくれたし。滝深さん達もいるし。何だか行けそうな気がします!」

 

「イけそう? お兄さん達がいるから? ――なんだろう……はるかさん、お兄さん使って下ネタ言うのやめてもらっていいですか?」



 久代さんや来宮さん、そして水間さんからも前向きな発言が次々と出てくる。

 ……いや、一人だけは誰かの物真似をして来宮さんをからかってるけど。



「も、もう! 奏ちゃん、違うから! ――あっ、ソルアちゃん!? アトリちゃんも!? あうっ、そっ、そんな優しい目で見ないで! 本当に違うからっ!」



 ……うん、大丈夫そう。 

 


 とりあえず、皆の雰囲気は明るく、沈んだような感じは一切ない。

 よし……良い傾向だ。



【施設 情報屋】で、ボスの居場所や弱点を予め知ることができていたためだと思う。


 運営から一方的に送られてくるメール。

 そして、ボスを倒せなかった場合に下されるペナルティ。


 普通の生存者なら、これに踊らされパニックになったり、情緒が不安定になっていただろう。


 だが皆はこうして浮足立たず、むしろボス戦についてポジティブに考えることができている。

 それは【情報屋】から得た情報が、単に“ボスの弱点を知ることができる”という価値以上の効果をもたらしたためだと思う。

  

   

 情報、買っておいて良かったな……。

 


「っし。じゃあ、改めて出発――」


 

“しようか”と声をかけようとした、正にそのタイミングで。

 


<――【施設 通信の館】 生存者サバイバー“TATEYA”様 より。生存者サバイバー“TOKI” 様へ。連絡を求める通信が来ています>



 予想もしなかったような展開が訪れたのだった。



□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□



「通信……えっ、【通信の館】? それに“TATEYA”って……誰だ?」



 その通知が届いてから、一定周期で高い音が鳴り続けている。

 ピコン、ピコン、ピコンという、何かの効果音みたいな感じだ。



「えっ、“TATEYA”? ……まさか、“建屋たてや君”じゃあ、ないわよね?」



 状況を手短に話した。

 すると、久代さんが先ず真っ先に、相手の生存者サバイバーネームに反応した。

 


「建屋君? ……あれっ、透子さんの知り合いにも“建屋君”っているんですか?」



 次は来宮さんだ。

 


「……えっ、凄っ。『透子さんの知り合いにも』ってことは、つまり、遥さんも“建屋”なる苗字の知り合いが? ……世の中狭いもんですね」



 水間さんが引っ掛かったように、俺もそこが気になった。

 あまり聞かない苗字だし。


  

「えっと、うん。同じ学部・学年の男子にいるの。専門科目で講義が一緒になることが多くって。……高校生の弟がいるって、そういえば言ってたかな」


「あっ、はい! 私も、同じクラスのクラスメイトで。よく私に話しかけてくれるんですけど。その話題の中に“大学生のお兄さん”がいるって」


 

 この【施設 通信の館】を使って話しかけてきた“TATEYA”なる相手が、それと同一人物かはともかく。

 

 少なくとも、久代さんと来宮さんの知り合いが、兄弟同士なんだろうということは確からしい。



「……それ、透子さんにも遥さんにも気がある男どもですよ、絶対。なんなら兄の方はプチストーキング疑惑ありですって」



 ……かもね。

 水間さんの小声の呟きに軽く同意しつつ、どうするかを判断する。

    

 とにかく出てみないと始まらないと、応答することに決めた。



<通信に応じますか?>


 

 との問いに“はい”と念じる。

 その際“相手の顔・自分の顔”の“表示・非表示”も選択できた。


 念のため“相手の顔:表示 自分の顔:非表示”とする。



 ――そして目の前に、宙へ浮くスクリーン画面が映し出された。



『――突然の呼びかけにも関わらず、応じてくれてありがとう、“TOKI”。俺は“TATEYA”。建屋たてやのぼるだ』



 ――うわっ、本名言いやがった。


 

 画面に現れた男は、俺とおそらく同年代くらいの若者。


 見るからに雰囲気の良い好青年で、体つきも恵まれている。 

 さぞ異性にモテるだろうという見た目をしていた。

  


「……!」


 

 久代さんが後ろで驚いたような様子が感じ取れた。

 そして急いでスマホを取り出し、文章を打ち始める。

 

 それをサッと俺に見せてくれた。



“今言ってた、建屋君!”



 ……なるほど。

 つまり生存者名に自分の苗字入れやがったのか、目の前の男は。


 ……まあ、俺もたまにゲームの主人公名、自分の名前入れるけどもさぁ。



 

『まずは礼を言うべきか。――TOKI。【マナスポット】を獲得してくれてありがとう。全生存者を代表して礼を言う。おかげで俺たち皆が100Isekaiをもらえて生存に役立てることができた』



 相手はまるでこちらの様子が見えていないかのように、一方的に話し続ける。

 だが通信自体には応じたはずなので、こちらから何か発信しても通じると思う。


 ……つまり“俺の顔の非表示”がちゃんと相手に対して機能しているということか。

 何より俺の背後にいる久代さん達に一切の反応を見せないことが、その証拠だと言えた。



『今、公衆電話の中にいる。ここが【施設 通信の館】だった。それで、君の名前は知ってたから、連絡を取らせてもらった』



 ほう。


 公衆電話は最近じゃ次々と撤去されてるって、なんかの講義で聞いた。 

 その久しく見なくなった公衆電話が、【施設】の一つだったらしい。 


 そしてその【施設】は、生存者サバイバーネームを打ち込んで相手を指定する方式、と。


 ……まあ通信に応じたことへの対価としては、十分払ってくれてるって感じかな。



『――それで、本題だ。君の元にも届いたはず。……“ワールドクエスト”の件だ。おそらく一番【異世界ゲーム】で先を行っている君にも、協力して欲しいんだ』



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