第21話 4人の生存者(サバイバー)、スキルの比較、そして危険の接近



『あぁ、はは。恥ずかしいからやめてよ。それに、今はそんなこと、何の意味もないから』



 私服の方のスラっとした女性は、困ったなという声で相手の男性に答えていた。


 ……そう、あの久代くしろ透子とうこだ。


 学部は違えど、青春やキャッキャウフフなキャンパスライフとは無縁なボッチでも知っている。


 それほどの有名人が、今、ファムの視界を通して俺の目に映っていた。



『何の意味もないってことはないと思うよ~? 俺、だってこんなことになって凄い絶望してたけど、久代さんと一緒ならって頑張れてるんだから!』



 私服の男は若い見た目やチャラそうな態度から、何となく同じ大学の学生だと思う。

 ……いや、ね、普通は他の学生のことなんて全く知らないから。

  

 他学部でも有名な美人さんだからこそ、だよ。


 

『……そう。ありがとう』  

 


 その美人さんはというと、長く艶のある黒髪を指でいじり、クールに流す。

 もうその話題はお終いにしてほしいという合図に見えた。


 ミスキャンパスの件やお世辞をもう嫌というほど言われ慣れてるからか。

 それとも軽薄そうな男の言葉に、何か裏でも読み取ったからなのかはわからなかった。



「……ご主人様? どういう状況なのですか?」



 二重に見えている光景の一つ、実際の目の前からソルアが恐る恐る尋ねてきた。

 申し訳なさそうな表情に、思わず頬を緩める。



「えっと、生存者サバイバーが4人いた。一人は知り合いじゃないけど知ってる人。多分、全員学生かな」



 内二人は制服を着ている所を見ると、おそらく高校生だ。

 ……うわっ、高校生の女の子の方もえらい美少女だな。



 少し距離があるが、それでもわかる。

 久代さんに負けず劣らずで、とても人目を惹く容姿だ。

 

 うーん、どういう構成パーティーだ?



「その制服を着てる男女は多分知り合い同士かな……クラスメイト? そんな会話が聞こえてくる」


「そうなんですか? ……どうしましょう」



 うん、どうしよう。

 昨日のことがあるから、同年代ばかりとは言え接触には消極的だ。


 だがファムの存在がバレない限りは、このまま会話を聞いて情報を得るだけでも意味が――



「あっ――」



 そうだ。

 まだできることを思い付いた。


 ファムの視界を得たからこそ、この場ででもできるかもしれないことだ。



 ――ファム、少しだけ。あとちょっとだけ近づけるか?



≪えっ? うん。大丈夫だよ、ご主人!≫

         


 元気な声が頭に響く。

 それと同時に、視界がゆっくりとだが4人の方に近づいて行った。



 ……っていやいや、久代さんのお尻と太ももに焦点当ててズームしないで。

 そこをガン見したいがために近づいて欲しいって言ったわけじゃないから。



≪あっ、ごめんね! えっと、こうか――≫



 良かった、故意にやったわけじゃないらしい。


 そりゃそうだ。

 俺がファムと視界を共有するのも、えっちぃことに使うためじゃないからね、うん。


 ……でも久代さん、やっぱ脚も凄い綺麗だったな。



 ごほんっ。

 4人全員が視界に入り、なおかつ適度な距離も保ててる。


 そこで、ドラッグストア遠征で得た能力を使用した。



<スキルを奪う対象を選択してください> 



 ――【スキル盗賊団バンディット】が、正常に発動してくれた。



 っし! 

 

 久代さんに照準が合った。

 これで二つのことが実証されたことになる。



 

 一つはファムを通じてでも、視界にさえとらえていれば【スキル盗賊団】は発動できるということ。


 もう一つはモンスターだけでなく人、もっと言うと生存者を相手にも通じるということだ。

 まあ今回はもちろん奪取するつもりはないが、今後敵対した相手には大きな武器となってくれるだろう。




<奪うスキルを選択してください>



[候補スキル一覧]


①鑑定Lv.2 ※施設レベルが足りません





 ……【鑑定】持ちだとぉ?



“天は二物を与えず”という言葉がこれほど裏切られるとは。

 どこかの陰キャボッチとの待遇格差を嫌というほど実感したのだった。  



□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□



「……ソルア。【鑑定】って凄いスキル?」


「まぁ、【鑑定】をお持ちの方がいらっしゃるのですか? それは凄いですね……」



 やはり凄いのか。


 全然周りには評価されないけれど、実は凄い可能性を秘めた能力だった……的なWEB小説っぽい奴じゃなく。

 普通に凄い能力として認められてる系の【鑑定】らしい。



 でもこれでまた新たな事実が判明した。


 奪える能力は施設レベルに比例しているのだろう。

 今施設レベル1だから、Lv.1のスキルしか選択できない、と。



「……お。あの男もスキル1個か」



 そして大学生であろう男も見てみたが、【HP上昇Lv.2】のみを有していた。

 つまり俺の今のスキル所持数は、結構上の方だと思っていい。

 

 昨日、そして今日までのことは全部無駄ではなかったんだと、少し報われたような気持ちになった。 



 できるだけ早く他の生存者と比較したいと思っていたので、4人も情報を見られるのはとてもありがたい。



『き、来宮きのみやさん。拠点まで、大丈夫? 荷物、す、少し俺が持とうか?』



 一方の高校生二人だ。

 男子は細身で髪も長め。

 

 おどおどというか、噛み噛みな様子は、どこかの暗いボッチを連想させる。

 ……ちょっとだけ親近感沸いた。



『……ううん、ありがとう。でも大丈夫。私も自分で探索に名乗り出たんだから、荷物も皆と同じだけ持つよ』



“来宮さん”と呼ばれた少女は大人しめな印象の女の子だった。

 美少女と呼んで差し支えなく、優しそうな雰囲気をしている。


 でもちゃんと主張するところはちゃんと言う。

 そんな芯の強さみたいなものも併せ持っていそうだ。


 少しウェーブがかかった長い髪は茶色に見えるも、ちゃんと落ち着いた色合いに感じた。 



「ふぅ~ん。彼ら、やっぱりちゃんとしたチームとして探索に出かけてきたらしい」


 

 聞こえていないソルアにもわかるよう、俺が同時通訳のようにして情報を伝えていく。

 それに“拠点”という言葉も聞こえた。


 つまり彼らは既に仮の住まいを得ていて、この世界に適応している人たちと受け取っていいだろう。



『そ、そっか。うん、じゃあちゃんと帰りも、俺が守るから。来宮さんのことは、俺が、守るから』



 ……恋人関係、ってわけじゃない、よね?

 土田つちだ君、凄い来宮さんのこと意識してんじゃん。

 

  

『……うん、ありがとう』


 

 ほらぁ~。

 客観的な第三者目線で見たら凄いよくわかる。


 来宮さん、結構引いてる感あるよ。

 でも感情のコントロールが上手いのか、殆ど顔に出していない。


 ……どんな関係性だよ。



 さて、そのお二人さんのスキルは、っと――

            


<奪うスキルを選択してください>



[候補スキル一覧]


①透明化Lv.1 


②身体強化Lv.2 ※施設レベルが足りません




 ――とっ、【透明化】!?



 おい土田っ!

 お前、それ、持ってるのバレたら見た目と相まって通報されんぞ!


 いやでも、透明化しての覗きって、バレないからこそ最強なわけで――



 ――って、あぁっ!  久代さん、【鑑定】持ってる! 



 お前絶対バレてるぞ、能力!

 

 

「? ご主人様、どうかなさいましたか?」


「い、いや、何でもない……」



 そ、そうだ。

 そもそも全員が全員、手持ちのスキルを教え合って、既に承知済みという可能性だってあるんだ。


 だからそんなに慌てることも無い――




[候補スキル一覧]


読心術テレパスLv.2 ※施設レベルが足りません 




【読心術】だとぉ~?



 

 これで暫定的だが、来宮さんの土田君への態度がかなり理解できた気がした。

 ……土田君よぉ、君の下心とか全部筒抜けなんじゃね?



□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□



「まあ、でも、ここらへんで十分かな」



 色々と複雑な関係性だということは分かったが、だからと言って俺がそこに介入すべき理由は一つもない。


 何より接点がありそうな久代さんさえ、こちらが一方的に知っているというだけの関係性だからね。



 ――ファム、もうOKだから。適当にして大丈夫だぞ。



≪ん、分かった! ご主人、どうだった? ボク、お役に立てたかな?≫



 ああ、十分だ。

 

【透明化】や【読心術テレパス】など、把握してないスキルがあるということを知れたのも大きかった。



≪? ご主人、分かれるみたいだよ。……“お花を摘みに”って言ってる≫



 感覚の共有を切った後、ファムから待ったがかかった。

 直後で聞きそびれた会話の内容を、ファムが繰り返してくれる。



 ……お花摘みかぁ。

 それ、トイレっすわ。


 久代さんか、あるいは高校生の方の来宮さんが、お上品な言葉を使ったと。

 で、一時的に男女に分かれたってだけだろう。

 


 美女・美少女相手でも、流石にトイレ中の映像を盗み見たり、音をこっそり聞きたいとは思わない。

 たとえこんな世界になってしまったとしても、だ。


 ……えっ、思わないよね?


 

≪――っ! ご主人、でも、感覚をもう一回、繋いでもらってもいいかな? あれ、危なくない? 大きなモンスター、いるよ!≫



 ――事情が変わった!



 即ファムと再び感覚を繋ぐ。

 二度目とあって、頭に生じた鋭い痛みにも特に動揺はしなかった。



「……もしかしたら、動くかもしれない。モンスターがいるそうだ」


「わかりました……!」



 ソルアにも手短に状況を説明。

 だが今のところは助けに入りたいとか、そういった義侠(ぎきょう)心・親切心みたいなものが主じゃない。


 

 まあ助けられればそれに越したことはないが、それよりもそのモンスターがどんなものなのかを確かめる必要がある。



 危険度・脅威によっては、今後の俺たちの行動範囲にも関わってくるからだ。 

 ヤバい奴だったら、そいつのいる方向は避けた方がいいだろうしね。



「……? ――あぁぁ……なるほど」




 一瞬思考が止まったのは、別に久代さんのおトイレシーンが間近にあったから……ではもちろんない。

 

 もしあの久代さんが草葉の陰でM字に開脚してるシーンがいきなり映ったら、そりゃ思考停止するだろうけど。

 今のはそうじゃない。



≪あれあれ、ご主人! あのモンスター、おっきくて危なくない?≫



 ファムが目に映したのは、空からの俯瞰(ふかん)した光景。

 久代さんと来宮さんが崩れた家の敷地内にいるのが見える。


 そしてファムの指さす先、モンスターがスーパーから出てくるところだった。



 ……微妙な距離だな。



 俺たちからそのスーパーまでという意味でも。

 そして出てきたモンスターから久代さんたちまでという意味でも、だ。



 まだ何も起きてないし、この後モンスターが久代さんたちと接敵するかもわからない。



 だが――



「――ホブゴブリン、か」 



 通常のゴブリンとは似ても似つかない、大きな肩幅に盛り上がった筋肉。

 

 そしてドラッグストアで寝ているゴブリンが多かったように、ゴブリンは夜行性というイメージが強い。

 なのに、なぜこのタイミングで、この上位種は起きて出てきたのか。


 

 まるで極めて上質な雌の、それも複数の臭いを嗅ぎ取ったとでもいうような。

 あまりに噛み合ってしまっている状況・出現と思えてしまう。



「……うわっ、そっちに行くか」



 ファムからもたらされる視界の映像では、ホブゴブリンはゆっくりとではあるが、久代さんたちの方へと接近していた。



 もちろん、二人は気づいていない。



「……でも、ある意味チャンス、か?」



 ハンターが獲物を狩る時、その瞬間が一番隙ができるとはよく聞く。     

 ホブゴブリンも脅威を感じはするが、他のお供は今のところ見当たらない。


 ……1体の今、そして俺たちの存在に気づいてない今こそが狙い時だったり?



「……行きますか?」



 ソルアの確信したような問いかけに、俺も頷いて返した。

 


「行くか」



 上位種を倒して経験値ウマウマ、Isekaiもガッポリもらっちゃおう。

 こっちは12時までに、1回分でも多くガチャ用のお金を貯めたいのだ。


 その副次的な産物として二人が助かるなら、言うことなしだしね。


  

    

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