第15話 成長、更に成長、そして到着 ……★


「ソルア。今度はソルアが待っててくれ」



 再び歩き始めて数分後、またモンスターの気配を事前に感じ取った。

 昨日と同じく、次は自分の番だと前に進み出る。



「……はい。よろしくお願いいたします」 

 


 俺の様子から何かを感じ取ったかのように、ソルアは笑顔で送り出してくれる。

 そこに信頼を感じ取り、より気持ちが上向きになった。



「Grrrr……」



 白い毛並みをした、四足歩行のモンスター。

 凶暴そうな猛獣、ウルフが行く手を阻んでいた。



 道端に落ちている、肥えたサラリーマン風の死体に《かじ》り付いていた。


 

「…………」



 だがこちらが先に見つけ、相手は未だ食事に夢中で俺たちに気づいていない。

 好都合だ。



 ……ソルアに待ってて欲しいと言ったが、長く待たせることはないかもしれないな。


 

 ――【操作魔法コントロール】!



 魔法を発動すると、早速ウルフの傍にあった物体を操る。

 何も、あっと驚く凄い物を操作して、相手を攻撃するわけじゃない。

    


 町はあちこちがモンスターによって破壊され、どこもかしこも荒れ果てている。


 

 ――つまり、とても手頃な瓦礫がれきや道路の残骸が入手し放題なのだ。




「……行けっ」



 重たい辞書ほどの大きさはありそうな、コンクリートの破片。

 それを頑張って宙に浮かし、無防備なウルフの脳天へと一直線に飛ばす。



「Gar――」



 ゴツンッと鈍い音を立てて、見事に命中。

 頭が一瞬へこんだように見えた。


 

 その一撃だけでウルフは倒れ、二度と動かなくなった。



<ウルフを討伐しました。18Isekaiを獲得しました>

 


 モンスターがその体毛もろとも全て光の粒子と化した後、討伐を知らせる画面が表示される。


 ……ふぅぅ。



「……す、凄い、です。ご主人様。正にあっという間でしたね」



 緊張から解放されたところで、ソルアが声をかけてくれる。

 ソルアにしても今の戦闘は驚きをもって受け止められたようだ。


 ……俺も、自分で驚いてるわ。



「ああ。まさかこんなにも上手くいくとは」



 その後も念のため、俺に戦闘を任せてみてもらうことにした。



「GOBB……」


「GOB,GOBAGYA!」



 今度の相手はゴブリンだった。

 しかも2体。


 男性老人の死体を検分・漁っている最中だった。



 その隙に、近くに落ちている割れた窓ガラスの破片を操作。

 これは昨日の経験もあって、思った以上に簡単に動かせた。



 そして、頭皮丸見えなゴブリンの頭を狙って発射。


 

「GYA――」


「GYABUA――」


 

 複数のガラス片は、連続して二匹の頭へグサグサッと刺さる。

 続けてダメ押しに、首付近を狙う。



 こちらも外すことはなく、ゴブリンの喉元に深く突き刺さった。



<ゴブリンを討伐しました。20Isekaiを獲得しました>


<ゴブリンを討伐しました。20Isekaiを獲得しました>



 そしてモンスター討伐を知らせる通知と同時に、レベルアップの音も鳴った。

 それも複数回だ。



<レベルアップ! ――Lv.3→Lv.4になりました。 詳細:HP+2 筋力+1 器用+1 容量+1(ガチャ師 +1→+3)>


<【MP上昇】レベルアップ! ――Lv.1→Lv.2になりました。 詳細:+4→+10>


<ジョブ【ガチャ師】レベルアップ! ――Lv.1→Lv.2になりました。 詳細:10連ガチャを使用時、追加で1回分無料ガチャ可能>


<スキル【異世界ガチャ】レベルアップ! ――Lv.1→Lv.2になりました。 詳細:復刻★3ガチャ券>



[ステータス]

●基礎情報

名前:滝深たきみ幸人ゆきと

Age:20

性別:男

ジョブ:ガチャ師Lv.1→Lv.2

保有Isekai:687



●能力値

Lv.3→Lv.4

HP:18/18→20/20

MP:9/13→15/19


筋力:15→16

耐久:6(装備+5)

魔力:6

魔法耐久:3

器用:7→8

敏捷:8 



容量キャパシティー:28/28(③[●●●●●〇]+④[〇〇〇〇〇〇]→33/40)

容量キャパシティー28/31(③[●●●●●○]+④[○○○○○○]→33/43)


●スキル

【異世界ガチャLv.1】→【異世界ガチャLv.2】

【身体強化Lv.1】

【MP上昇Lv.1】→【MP上昇Lv.2】

【索敵Lv.1】

【時間魔法Lv.1】

【操作魔法Lv.2】


●称号

施設の王



□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□ 



「ふぅぅ……回復回復っと」



 昨日見つけたパソコン教室までやってくることができた。

 購入しておいたMPバッテリーで、消費したMPを充電しておく。



[①MPバッテリー(小):3/60 MAX充電まで残り10:18……]  

 

[②MPバッテリー(小):60/60 MAX充電まで残り24:00……] 

 


 MP:19/19



【MP上昇】のレベルが上がってくれたおかげで、出発時よりもMPが増えた状態だ。

 未だ②のバッテリーはフルで残っていると考えると、中継点・休憩所をゲットできたのは本当にデカい。


 それに俺の戦闘スタイルは今のところ、MP頼りなところが大きい。


【身体強化】もあるし、包丁でも戦えることは戦える。


 でもさっきの戦闘はもろ【索敵】、【操作魔法】に頼ってた。

 そして切り札の【時間魔法】と、MP量がものをいう能力ばかり。

 

 今後は確実にMPが鍵を握ってくると思う。

  


「【操作魔法】、全然行けたな」

 

 

 モンスターのせいで、世界は、社会はグチャグチャにされてしまった。

 だがそんな世界が、実は【操作魔法】とは相性がとてもよかった。


 武器・弾丸となる瓦礫や残骸、ガラス片がそこら中に落ちているからだ。


 モンスター達が壊してのさばっている世界は、案外自分たちには有利じゃないんだぞ、と。


 そんなある種の意趣返しができているようで、少し気分がよかった。

     


「……俺も、この世界に適応していってるってことかな?」



 そしてゴブリンとの戦闘。

 何気にソルア抜きで俺がゴブリンと対戦するのは、あれが初めてだった。


 だが全く躊躇ちゅうちょなく、ガラス片を命を奪うため放つという行為を淡々とこなせた。


  

 ――まあ、そうか。自分の体でさえ攻撃できたんだ。


 

 そう思うと、少しも躊躇ためらうことなくゴブリンをれたことに納得がいった。

 昨日の一件の副産物というわけだ。



「さてっと……次は――」

 


 回復が済み、頭の整理も進んで次のことに移る。

 廃墟はいきょとなったパソコン教室を出る前にやっておくべきことは……あっ。



「【異世界ガチャ】のレベルも上がったのか。で? “復刻★3ガチャ券”?」



 

==========

 復刻★3ガチャ券


 このアイテムを手に入れるまでに、ガチャを回して手に入れた★3以下の結晶を選択する。

 その選択した物を、確定で再び入手することができる。 


 

==========      



「おぉぉ!?」



 説明文を読んで、驚愕の声を上げる。

 確かに★5確定ガチャ券とかに比べると見劣りするだろうが、★3でもゲットできるのなら全然ありがたい。



 今の内に使っておくことにする。



 紙幣のような大きさをしたチケットが消えるのと引き換えに、目の前に新たな画面が出現。




<入手する結晶を選択してください>




●身体強化Lv.1 スキル ★★

●HP+1 能力値 ★

●下級ポーション アイテム ★

●耐久のネックレス 装備 ★★

容量キャパシティー+1 能力値 ★★

●下級MPポーション アイテム ★

●【MP上昇Lv.1】 スキル ★★★

●筋力+1 能力値 ★

●ただの剣 装備 ★

●5Isekai その他 ★  

●薬草 アイテム ★

●8Isekai その他 ★

●【索敵Lv.1】 スキル ★★★

●MP+1 能力値 ★

●魔力+2 能力値 ★★

●魔法のステッキ 装備 ★★

●黒パン その他 ★

●【村人】 ジョブ ★




「うわっ、すげぇぇ。本当にゲットしたことある奴から選ぶんだ」



“容量+1”とかダブった分は省略されてるっぽい。

 で、何を選ぶかだけど……。



「まあせっかくなんだし★3からだろう」


 

 わざわざここで★1を選ぶ理由は今のところない。

【身体強化】が★2らしいが、もらえるのならより入手しづらい★3の方がいいだろう。



 そしてさっき思考した通り、MPの量が今後の生存の重要な要素となる。



「“【MP上昇Lv.1】”だな」


 

 選択すると、大きな麻袋が出現。

 ガチャが回り始め、銀色をした結晶が排出された。



==========

ガチャ結果


●MP上昇Lv.1 スキル ★★★


==========



 で、この場合どうなるんだろう。

 既に持っているスキルを当てると……お?



<【MP上昇Lv.1】は、既に取得している【MP上昇Lv.2】に統合されます。統合中……>


<――統合が完了しました。【MP上昇Lv.2】→【MP上昇Lv.3】になりました。 詳細:MP+10→MP+25>



[ステータス]


MP:19/19→34/34



 おっしゃぁ!


 純粋に足し算するタイプか。

 いや、もしかしたら3から4、4から5とかはまた別かもしれない。

 まあ今はそこはいい。 


 出発時から一気に倍以上にまで成長した。

 そうすると、昨日は1発でヘトヘトになった【時間魔法】も、多分普通に使えるようになるのではないか。



 大きな成長を実感し、体もしっかりと休め、改めて出発した。



□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□



「よし、ようやく着いたか……」


「あれが……ドラッグストア、ですか?」



 避けられる戦いは避け、2回だけゴブリンとゾンビを【操作魔法】で蹴散らし。

 30分ほどかけ、ようやくドラッグストアの敷地へと辿り着いた。



「……ああ」

 


 駐車場に停めてある車はどれも壊され、中には車内に死体が置いたままの物もある。

 

“ポイント5倍デー”や“処方箋しょほうせん受付”、“24時間営業”などののぼりは子供が悪戯いたずらした後のように、無残に切り刻まれていた。

   

 外に陳列されていたトイレットペーパーや安売りの洗濯洗剤も、グチャグチャにされたまま地面に転がっている。



 ……酷い有様だ。



 ここもモンスター、いるだろうな。

 もしかしたら昨日の時点ではいなかったかもしれないが、もう仕方ない。



「念のため、様子を見ながら行こうか」


「はい」



 駐車されたままの車を隠れ場所として、それを次々と経由し、店舗へと近づいていく。



「……あっ、見張り、いましたね」


 

 前にいるソルアがしゃがみ、そーっと顔を出して確認。

 ……やっぱりいるか。



 ――ってか、ソルアさん? その姿勢だと、俺にお尻、向いちゃってますけど?

   


 忍のイメージのような膝立ちの隠れスタイルではなく。

 猫が伸びか威嚇をするように四つん這い、更にお尻をこちらに突き出すような形になっている。



 ……うわっ、ちょっ、だから、ソルア。

 

 君、その、スカート、凄い短いんだから!

 めくれるめくれる!


 中が見えちゃう――



<――【施設】の中に入りました。※利用不可。この施設はモンスターにより占領中です。解放の後、利用可能となります>



 神の助けか、それとも邪魔をしたかったのか。

 そんな狙ったようなタイミングで、ドラッグストアが新たな【施設】だと知らせる通知が届いたのだった。

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