第8話 再び外出、成長、そして再びの【施設】




「……よし、じゃあ改めて行こうか」



 ソルアの至高の太ももでたっぷりと癒しを得た後。

 再び外へと出かけることにした。

 


「はい。……あの、ご主人様さえよろしければ、またいつでもお使いくださいね」



 照れが残ったような、少しはにかんだ表情。

 桜色の頬をしたまま、ソルアはとんでもない提案をしてくれる。


 

「いつでも!? あ、あぁ……うん。わかった、ありがとう」 

    


 ――こっちはそんなのよろしいに決まってる!



 ……しかし、がっついてはダメだと先ほど学んだばかりだ。

 クールな男風を装い、気にしてない感を出して歩き出した。


 ふぅぅ。

 また一つ、生き延びなければならない理由ができたな。




「今回はどういたしましょう? 先程と同じ方向に向かいますか?」



 スイッチを切り替えたソルアが、早速次の行動を尋ねてくる。



「特に目的地は決めてない。ただ今回はさっきとは違う方向に行こうか」



 さっきがアパートから見て北の方、最寄りのコンビニ方向だとすると。

 今から向かうのは東、よく利用するスーパーやドラッグストアがある方向だ。



「さっき3階に上がって景色をチラッと見たが、ちょーっと北方向(あっち)は様子が怪しい」

 


 他の3方向に比べ、火の気というか、上がっている煙が多すぎた。



「……そうですか。他よりも強いモンスターが多いのかもしれませんね。わかりました」



 ソルアの同意も得られたので、テキパキと移動を開始した。




「…………」


 

 100mほど進み、曲がり角に差し掛かる。

 そこで顔を出してのぞき込む前に、スキルを発動。


 ――【索敵】っ!

 


「……よしっ、いないな」



 頭の中、そして肌で実感できる範囲内で敵(モンスター)の不在を確認。

 それを認識してからスキルを切り、堂々と角を曲がる。


 そこから見える先、30mほど向こうにモンスターの姿が見えた。

 小声と合図でソルアに伝える。

 


「あっ、本当――」



 ソルアは一瞬だけ驚きを見せるも、直ぐに表情を引き締めて準備する。

 


「ご主人様、これ、凄く助かります」



 そう言ってもらえるとこっちも嬉しいし、検証した甲斐があったというものだ。


 今では、どこにモンスターが潜んでいるかわからない世界となってしまった。

 そんな中でも怖いのは、出会いがしらに敵とこんにちはをしてしまうことだろう。 

 

【索敵】を使えば、その最悪の事態を防げるのだ。 

 要所要所で使うようにすれば、MPの消費も最小限に抑えられるし。



「あれは……ボーン。スケルトンの下位互換体ですね。少し硬さが厄介ですが、それ以外は特に警戒すべきモンスターではないでしょう」


 

 骸骨がいこつが命を得てそのまま歩き出しているような姿。

 ソルアはその見つけたモンスターを観察し、細かい情報を伝えてくれる。

 

 

 おぉぉ。


 ソルアが来てくれたことで、もちろん実際の戦闘でとても優位に立つことができている。


 ただそれだけでなく。

 こうした俺の知らない異世界知識や情報を教えてくれるのも、ソルアに来てもらってよかったと心から思える点だ。



「全身骨か……。じゃあ包丁はちょっと避けた方がいいか」



 武器である量産品の包丁をタオルで巻いてからバッグにしまう。

 そして銅色の結晶を一つ、代わりに取り出して具現化させた。



「えっ? ご主人様、それ、“魔法のステッキ”、では?」  

        


 ソルアが俺の手にした物を指さし、“えっ、それで出すの合ってますか?”という顔で尋ねてくる。

 はい、魔法のステッキで大丈夫です。



==========

●魔法のステッキ ★2


 木でできた杖の武器。

 魔法使いになりたての者が初めて手にするような、初心者用のもの。


 魔法を使う際、ごく最低限だが補助をしてくれる。  

 また、これで殴ると普通に痛い。 


==========



 先っぽがぐるっとトグロを巻くような形をしている。

 持ち手部分を両手でバットのようにして握っても、十分余りがあるほど長さもあった。



「そ、そうですか……お気をつけて」



 ソルアは初めて見せる困惑気味の表情で俺を送り出してくれる。

 それでも必要な際には駆け付けられるよう、ちゃんと準備もしてくれているのだからありがたい。

 

 ……ソルアさん、そんな目で見なくても大丈夫だよ。

 俺、自称魔法使いとかじゃないから。


 まだ30歳なってないし、うん。

 


「っす。――っ!!」



 軽く頷き、ステッキ両手に走り出した。

 


【身体強化】が加わった脚で強く地面を蹴り、モンスター目掛けて一直線に走る。


 相手は、全身が骨、骨、骨。

 音や気配を察知する感覚器官が備わっているのかどうか疑問だが、今の所気づかれてはいない。


 そのまま一気に距離を詰める。

  


「らぁっっ!!」



 木のステッキを、骨目掛けて叩きつける。

 ……いや、そりゃ俺、まだ魔法は使えないもん。


 だったら殴るしかないよね、うん。

 当然でしょ。



【索敵】のおかげで、事前に武器を選ぶ準備ができ。

 そして突撃するタイミングを計ることができた。


 おかげで、先制攻撃の機会がとても作りやすかったと思う。

  

 

「BOO――」 



 ステッキでの力任せの殴打がクリーンヒット。

 完全に無警戒だった背後からの急襲で、モンスターは頭だけでなく、背中の骨までが砕け飛んだ。

 

 そしてそれが全身に連鎖し、結局は体全体が一発でバラバラになったのだった。



<ボーンを討伐しました。5Isekaiを獲得しました>   



□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□



「っ! おらっ、こんのっ!」



 またしばらく歩いて戦闘になり、今度はゾンビを相手にしている。

 しかも今度は2体だ。



「はぁっ! せぁっ! ――よしっ、次っ!」  



 一方で、ソルアにはボーン2体と戦ってもらっている。

 ちょうど1体を始末し終え、正に今からもう1体へと向かう最中だった。



「くっ! あぁっ、りゃぁ!」

 


 スタートが2対4なので、どうしても一人が複数体を担当することになる。

 なので、俺がゾンビ2体を引き受けている間に、ソルアに1体ずつ骨を潰してもらっているのだ。



「――【光打ライトスマッシュ】!!」



 ソルアが持つ、魔法のステッキが黄金色に輝く。

 そのまま大きな衝撃が、骨のモンスターに叩きつけられていた。


 うぉっ、おっかねぇ……。



「ご主人様っ、終わりました! 今向かいます!」



 処理し終えたソルアが駆けつけてくれて、その後残ったゾンビも直ぐに片付いたのだった。



<所有奴隷“ソルア”がボーンを討伐しました。5Isekaiを獲得しました>  


<所有奴隷“ソルア”がボーンを討伐しました。5Isekaiを獲得しました>   


<所有奴隷“ソルア”がゾンビを討伐しました。8Isekaiを獲得しました>


<ゾンビを討伐しました。8Isekaiを獲得しました>


<レベルアップ! ――Lv.2→Lv.3になりました。 詳細:HP+2 筋力+1 器用+1 容量+1(ガチャ師 +1→+3)>




[ステータス]


●能力値

Lv.3

HP:13/16→15/18

MP:8/13


筋力:14→15

耐久:6(装備+5)

魔力:6

魔法耐久:3

器用:6→7

敏捷:8 


容量キャパシティー:23/25→23/28



現在:954Isekai




「おっし! またレベルが上がったぞ!」


 

 容量も狙った通り上がっている。

 この記載からすると、通常は1しか上がらないが【ガチャ師】のジョブ補正で+3になってるってことだろう。



 念のためもう一度虹色の結晶を使おうと試してみたが、まだ容量が足りないらしい。 


 だが着実に【時間魔法】の習得へは近づいているはずだ。

 

 グヘヘ。

 待ってろよ【時間魔法】! 


 

「あっ、私もレベルアップです! ようやくLv.2になりました」



 レベルの話をすると、ソルアからも同じ内容の話題が返ってくる。

 


「えっ!? レベルアップして、Lv.2になったの!?」  



 ……じゃあ今まではLv.1だったの?

  

 あれで!?

 あの強さでLv.1!?



「? はい。申し訳ありません、まだまだ本来の力を取り戻すには至らず、ご主人様にご迷惑をおかけしてしまい……」


 

 だが今の俺の反応をどう受け取ったのか、ソルアはシュンとしてしまう。

 そしてなぜか自分を責めて申し訳なさそうな表情に。



「ああ、いやいや! 全然、むしろ本当助かってるから! 今の戦闘も、魔法のステッキの使い方、抜群だった、うん!」



【索敵】で事前に敵編成を知り、武器を持ち換えたことがまた功を奏した形になった。

 ソルアは俺が耐えられなくなる前に、直ぐ骨どもを片付けて来てくれたし。



「そうですか……。ご主人様のお役に立てているのであればいいのですが」



 とりあえず俺の励ましやフォローが通じてくれたらしい。


  

「…………」



 でも、そうか。

 

 今のソルアの言い方で理解したが。

 ソルアは元はもっと高いレベルだったんだろう。


 でも、ソルアを召喚する前に見た、あの太った男の光景。

 そして召喚した直後、泣きながらソルアが語った『罠にはめられた』という内容。


 

 それが関係して、今はLv.1スタートになってしまったのかな……。



□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□



「――あっ、ご主人様! あの“施設”はなんですか?」



 今正に考えていたソルアの声が聞こえて、思考から現実に引き戻される。

 そして“施設”というワードに頭が瞬時に切り替わった。




「【施設】? ……あぁ。あれは“パソコン教室”だな」



 ソルアが指さす建物を見て、直ぐに自分の早とちりに気づく。


 俺が思った【施設】、つまり【異世界ゲーム】特有のワードではなく。

 単にソルアが聞いたのは、自分の知らない建物を尋ねるため“施設”と表現しただけだったのだ。



「うわっ……見事に入口が破壊されてるな」



 パソコン教室がどんなところかを簡単に説明しながら、その外観を観察する。

 道路に面した2階建ての1階部分、テナントとして入っていたのだろうか。


 ガラスの扉が粉々に壊されて、中が開け放たれた状態になっている。


 

“こどもプログラミング教室 生徒募集中” 


“無料体験 実施中!”


“シニア 大歓迎”



 などなど。

 様々なのぼりがナイフか何かで切り刻まれ、むなしく風になびいていた。



「中は……ですが、モンスターの気配はありませんね」



 ソルアは説明を聞きながらも、少しだけ顔を近づけ様子を窺(うかが)っている。

 

 まぁ、ねぇ。


 

「モンスターにPCなんて、何の役に立つかもわからないただの薄い板だろうからな」



【索敵】を用いながら中の様子を確認。

 まあ言ったように、ここにとどまるモンスターなんていないんじゃないかな。



 だがそこで、異変があった。



 実は物好きなモンスターが潜んでいて、不意を突かれた俺はゲームオーバーに……的な展開ではなく。



<――【施設】の中に入りました。これより、当該施設を利用することが可能です>



 いきなりのシステム画面の告知。 

 さっき勘違いとして捨てていた可能性が、やはりそれだったのだと遅れて理解した。



 そしてその言葉に従い、アパート自室の【宿屋】の時と同じように進めていくと、【施設】を利用することができるのだった。



[施設 商店:○○パソコン教室]


①MPバッテリー(小):100Isekai ……販売中


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容量キャパシティー保存ディスク:100Isekai ……販売中


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