第8話男爵令嬢side
私の名前は、エラ・ダズリン。
今は男爵家の一人娘だけど、私の場合最初からそうだった訳じゃないわ。十二歳までは下町のパン屋で伯母親子と暮らしていたんだもの。
パパが迎えに来てくれた時は本当に嬉しかったわ。
私のママは駆け出しの女優の卵で、男爵家の跡取りだったパパと恋に落ちて私が産まれたらしいわ。なんでもパパには親が決めた奥さんがいて、私とママの存在を知った奥さんが屋敷から追い出したっていうじゃない。酷い女と結婚したパパが可哀そうだわ。パパとママは愛し合っていたのに!
愛のない結婚なんて最悪よ!
パパに愛されなかったくせに図々しくも男爵家に居座っていたというじゃない。愛し合い恋人達を引き裂く悪女の存在のせいで私達親子の人生は滅茶苦茶にされたわ!!
ママは生まれたばかりの私を連れて姉夫婦の処の身をよせていたんだけど、私が三歳の頃に突然いなくなっちゃったのよね。私は幼過ぎてママの顔も覚えていないけどパパが言うには私はママそっくりなんですって。誰もママの行き先を知らないし、伯母さんにもこの話はタブーだった。聞いちゃいけないって空気で分かるものよね。でも、自分の出生を知った今なら分かるわ。きっとパパの奥さんがママを妬んで何処かへ連れて行ったに違いないわ。そうじゃないとおかしいもの。
伯母さんは何も言わなかったけど私のパパが貴族なのを知っていたんじゃないかしら?
それと同時にママを嫌っていたわ。よく、ママの悪口を言われた。
『早くおし!ベーコンが焼けたらパンにはさむんだよ!!』
『トロトロするんじゃないよ!』
『うちには働かない人間に食わせる物はないんだよ!!』
『あんたは本当に母親似だねぇ!要領が悪いったらないよ!!』
毎日の様に伯母さんの怒鳴り声を聞かされていた気がするわ。
そんな伯母さんの娘も口うるさくて嫌だった。二歳年上の従姉のデイジーは太っちょの伯母さんと違って細身だったけど神経質すぎていつもヒステリックだった。そのくせ自分勝手で思い通りにならない事があるとすぐに大声で泣き叫ぶのだ。
私が少しでもミスをすれば棒で叩かれるし、食事を抜きになる事もあった。屋根裏部屋で寝ているから冬は寒くてしょうがないし夏は暑くて仕方なかった。
他にも部屋は有るのにどうして屋根裏なの?
従姉は部屋を二つも持っているじゃない!
私は伯母さんや従姉に召使いの様にこき使われたわ。
朝は日の出と共に起こされて掃除やら何やらの家事をやらされたの。それから市場まで買出しに行かされたり、店番をしたりして、伯母さんの料理の下ごしらえなんかを手伝ったりしている。夜には風呂に入って汚れを落として眠るだけの日々。学校に行っている間だけが唯一休憩できた。教会で教わった神様の話よりずっと酷い扱いを受けていると思ったわ。
教会では神さまはいつでもみんなを見てくれてるから頑張れば良い事が有ると教えてくれた。けど実際は違った。
神様なんて何処にもいない!!
いるのは鬼婆だけ!!!
そう思った処で私は伯母さんに逆らえない。
あんな意地悪な伯母さんなのに街の人は伯母さんを褒め称えるのよ?!
おかしいでしょう!!
街の大人は皆伯母さんに騙されてるとしか思えないわ!!
奴隷のように働かされて、罵倒されて、時には理不尽な暴力だって受けたわ。
それでも、私にとってはたった一つの家であり家族なのだから我慢してきたの。
なのに――――
あれは十二歳になったばかりの頃だった。
「塩が切れちまってるね。エラ、買ってきてきな!」
夕食の支度をしていた伯母さんは鍋をかき混ぜながら言った。
まだ夕方になったばかりで外はまだ明るいけど子供を買い出しに行かす時間じゃない。
「早くおし!!」
仕方なく店に買い出しに出かけた。
お金を受け取り店のおばさんに挨拶をして外へ出ると空は既に暗くなり始めていたの。急ぎ足で大通りに出て人混みの中を通り抜けなくっちゃ。人通りの多い街並みですら夜は何かと物騒なんだもの。見回りの警備隊はいるけど、路地裏に連れ込まれたらどうなるか分からないから気を付けないと。
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