第9話男爵令嬢side

 

「ほ~~。こりゃぁ、なかなかの上玉じゃねぇか」


 不意に声をかけられて振り返ると見知らぬ男が二人立っていた。

 一人はかなり体格の良い髭面の男で、薄汚れたシャツを着て腰からはナイフを覗かせていた。もう一人は痩せていて背が高く目つきの悪い男だった。


「まだガキだがこりゃ滅多にお目にかかれねぇ別嬪だ」

 

「ああ、後、数年もすりゃあもっと良い女になるぜ」


 そう言って二人の男は下品な笑い声を上げた。


 一瞬にして全身の血の気が引いていくのを感じた。

 この二人は良くない事を考えているのが一目で分かったからよ。


「きゃっ!!!」


 痩せ型の男が私の手を掴んできた。

 

「離して!痛いっ!!」


 私の悲鳴が聞こえた筈なのに周りの大人達は見て見ぬふりをしている。

 信じられないわ!!

 どうして誰も助けてくれないの!!


 男達に無理矢理連れて行かれているのに!

 助けを求めても誰も目を合わせようとしない。

 なんで?!


 二人の男たちの下卑た笑いが気持ち悪い!


 連れて行かれた先は薄暗い倉庫の裏手だった。

 

「ここなら見つからねぇ」

 

「早くしろよ。他の連中に先を越されちまうぞ。さっき、酒場の方でも騒ぎがあったらしいしな」

 

「おいおい、楽しみが減っちまうじゃねえかよぉ」

 

「さっさとやって後から楽しめばいいだろ」

 

「なんだよ、お前……この嬢ちゃんを売っ払うつもりだったろ?気が変わったのか?」

 

「これだけの美人だ。奴隷商人は大喜びするに違いねぇ。だが、それは俺たちが楽しんだ後からだって遅くはねぇさ」

 

「確かにそうだな!がははは!そういう事だから諦めてくれよ。おじょうちゃ~ん!」


 私は必死に抵抗したけど男たちの手を振りほどく事はできなかった。

 

 なんで?なんでなのよ?!

 どうしてこんな目にあわないといけないの!!!


 胸元を鷲掴みにされ上着を引き裂かれ下着が露になると男たちは更に笑みを深くする。キモし悪い顔を近づけないで!!

 スカートに手をかけてきた。

 気持ち悪い……い、いや――――――!!!!!! 誰かっ!助けてっっっっっっ――――――!!!

 

 

「ギャッ!」

 

「うぐっ!!」


 その時、鈍い音が聞こえたかと思うと突然二人が地面に倒れ込んだ。

 一体何が起こったのか分からず唖然としていたら「こっちから音がしたぞ!」という警備隊の声と共に数人の大人の足音も聞こえてきた。ドッと安心してそのまま意識を手放してしまったわ。






 


 次に目が覚めるとそこは病院の一室だった。

 

 あれから強姦未遂容疑で男たちは逮捕された。

 男たちは両足と両手の骨を折っていたらしく、それを私がしたと言うのだから驚いた。しかも魔力で咄嗟におこなったと言うのよ。信じられないわ。でも、お医者さんは言うの。


 「稀に君のように魔力に目覚める者もいるんだ。もしかすると君は貴族の血が流れている可能性が高い」


 私が貴族?!

 まさかと思った。

 でも、お医者さんの言う事は本当だったわ。

 だってその後、伯母さんの家に戻ることなく男爵家に引き取られたんだもの。


 こうして私は本当に家族の元に帰ってこれた。

 もうパン屋の居候の娘なんかじゃない。

 男爵家の令嬢なの!

 



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