第17話

今にも潰されそうな重い空気が頭に、肩に、首に。

のしかかっては止まらない。

ああ、何か言わなくちゃ。でもなにを?謝らなくちゃ。でもい謝って何になるの?

なんて言ったのならば、たとえその答えがどうあろうと自分に乗った重りを勝手に下に置いて楽になろうと、逃げるだけにしかならないのに…。

「で?」

で?

で?って…なに?わかんないよそんな空気どうしたら。

「辛かったのか?苦しかったのか?逃げたかったのか?」

父が淡々と言う。

今の寧音しずねには鋭利なナイフに他ならない。

ああ、怒られる、でもそれは当たり前だよね。

「うん」

掠れた声でかろうじて音を出す。

「なんで…なんで相談しなかった!」

重い空気が爆竹のように爆ぜる

父の怒りと悲しみ混じりの一言で。

「お前が一言でも、何か言ってくれさえすれば結末は変わったかもしれなかったのに!死ななくて済んだかもしれなかったのに!何故だ!何故1人で抱える!」

いつの間にか父親の目にはいっぱいの涙が次から次へと溢れて止まらない。

こんな言い方はないだろう。寧音は頑張ったんだ、逃げたくても逃げられなかった、どうしていいのか分からなかったんだ、なあ、分かるだろう?

わかってやってくれよ、納得してくれよ、今目の前にいるじゃないか、娘が…止まってくれ、こんな事を言いたかったわけじゃない、どうかこれ以上…父親のワシが寧音を責めないでくれ!


どれほど願っただろう、元気でいると連絡が来ることを。

どれほど待っただろう、今年は帰るよ、と言われることを。

どれほど期待しただろう無事でいてくれと。

幸せでいると。毎日毎日毎日毎日待っただろうか。



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