何もない惑星
「本日の正午頃、地球は滅ぶでしょう。続いては」
テレビの中のアナウンサーが、いつもの調子で原稿を読み上げる。天気予報でも伝えるかのような淡々とした口調に、見ていた人々は「ついに来たか」と覚悟を決めていた。
地球滅亡の予言。それは単なるオカルトばなしではなく、人類が作り上げた最高峰のAIによる予言だった。宇宙に存在する隕石の数とそれの軌道を幾度にもシミュレーションした結果、生み出された。残酷な真実。
それは当然、世界規模のニュースとなる。ある人は激怒し、ある人は信じず、ある人は絶望した。
そんな中、救世主とも呼べる人物が現れた。本名は分からない。だが、その人物は「惑星移住計画」と銘打った計画を持ち出し、全人類の存続を約束すると唱えた。人々は彼のことを、「メシア」と呼んだ。
メシアの計画はこうだ。地球滅亡までの間に、地球上にある全ての資材を使ってでも、70億近くに及ぶ数のポッド、移住用防護服、そして地下に核シェルターのようなものを作ること。それだけだ。それ以上のことは、公には伏せられていた。
最初は誰もが半信半疑だったが、その計画の緻密性や確実性、何より地球の人類を愛する彼の気持ちが、あらゆる国の首脳陣の賛成を得た。資材を独占していた国も、どうせ滅ぶならと提供してくれることを約束してくれた。滅亡する間際になってようやく、世界がひとつの方向を向いたというのは、皮肉に思える。
計画は順調に進んだ。最後の仕上げが行われたのは、予言の日の1週間も前だった。全人類が協力し合えれば、さらなる発展が望めることの証明である。
メシアは作成したポッドの中に惑星移住用防護服を入れ、地下のシェルターに格納せよ、と命じた。このことを知っているのは、各国のトップと作業に勤しんだものだけだ。
人々には伝えないように。ここまでの努力を無駄にはしたくないだろう。メシアは脅迫にも似た口調で、口外することを禁じた。
予言の日の11時30分頃。(日本時間)
何も変化がない人々は戸惑った。惑星移住計画はどうした。もしかして見捨てられたのか。全人類を救うなんて無理な話だったんだ。朝までの余裕はどこはへやら、人々は困憊していた。てっきり飛行機のように大きいロケットに乗って、他惑星へ行くと思っていたからだ。その時、テレビではひとつの番組が流れていた。メシアによる、惑星移住計画についての話だ。
「本日、地球は滅亡する。それは抗えぬ運命であり、我々はそれを受け入れる他ない。だが、安心して欲しい。我々は生き残れる。皆様の記憶が無くなることは決してない。我々は新たな、”
そう言ってメシアは大いに笑った。人々の理解は追いついていない。だが、天才というのは得てしてそういうものだ。悔しいけれど、彼が笑っているのなら、大丈夫だろう。そうして、思考を放棄した人類は、ただ最期の時が来るのを待った。
予言の日の正午。
大きな隕石が、雨のように地球を襲った。
大地はえぐれ、海は干からび、木々は枯れ、美しき青い惑星は、もうなかった。そこに住んでいた生物も、もう居ない。たった一つの種族を除いて。
「──生体反応の消滅を確認。スリープモードを解除。惑星移住計画を実行します」
地下のシェルターでアナウンスが流れた。70億近くもあるポッドはいっせいに開かれ、中からは、いわゆる”造人類”が歩き出した。機械の体だった。食料もいらない。睡眠もいらない。充電すらいらない。完璧な生命体だ。
造人類は思った。我々は1度、死んだはずでは?しかし、こうして生きている。記憶が受け継がれている。メシアの言葉も反芻して思い出せる。
困惑の中、アナウンスに従い、造人類は出口へ向かう。初めて見た景色は、荒れ果てた大地。かつて、地球だった惑星に降り立った。
「何も無い惑星へようこそ。一からまた、文明を発展させよう」
1人の造人類だけが、大いに嘲笑っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます