【KAC20236】アンとラッキーと、セブン

ぬまちゃん

聞いたか? 隣のクラスの杏ちゃんの噂……

 そう言って、噂好きの級友がいつものように彼の隣に腰かけた。


「交換留学生のラッキーとかいう奴から交際を申し込まれたって話だろ。女子達の間ではもう有名みたいだよな」


 焼きそばパンを包んでいるビニール袋を外しながら、その噂話はもう聞き飽きた、というような顔をして彼は級友に返事を返す。


「その話はもう古いぜ。今はもっと進んでるんだって。学年一のイケメン野郎、あの名波が横恋慕しやがって、彼女に猛烈アタックしてるって話なんだ」

「俺のことをミスターセブンと呼んでくれ、とか自分で言ってる、あのカッコつけの名波が? いくら学年で一番もてるからって、外国仕様が相手では分が悪いのにな」


 彼は、パンからはみ出た焼きそばを口にしながら、級友の噂話を興味深げに聞き始めた。と、そのとき。


 ガラガラ!


 教室の扉が大きな音をたてて開けられると、シルバーの髪と青空のような眼をした長身の男性がさっそうと現れた。

 彼は教室を見渡して、目的のものを見つけると、躊躇せずに歩き始める。


「おい、うわさをすればだぜ。でも、なんでアイツがお前の幼馴染に向かって一直線に歩いてるんだ?」

「なに! 嘘だろ」


 男性の動きに驚いた級友が、彼に知らせると、彼は焼きそばパンを食べていた手を止めて、あわてて振り返る。

 幼馴染は、まだ男性が近づいて来るのに気が付いていないのか、お弁当を広げて食事を楽しんでいるようだった。


「まさかと思うが、アンを取り合って、ラッキーの奴、セブンに負けた? それで、お前の幼馴染に!」

「まじかよ。振られて直ぐに別の女に尻尾を振るなんて。外国製品弱すぎ」


 二人は立ち上がると、唖然とした面持ちでシルバー髪の男性を見つめる。


「お嬢サン、お食事中もうしわけありまセン。どうか、ワタシと付き合って下サイ」

「ほへ? ごほごほ」


 幼馴染は、青い目の男子高校生に突然告白されて驚いてせき込む。


「食事中にそんな話を持ち込まないで。それに私には想い人がいますから」

「え? ワタシ、そんな話聞いてないデス」


 驚いて青い目を大きく見開いた彼は、寂しそうに大股で教室を出て行った。


 ごめんね、ラッキー君。

 君にとって私はアンラッキーだったか(な)な。


(了)

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