奥さんと俺とギャンブルの話
脇役C
奥さんと俺とギャンブルの話
まったく奥さんとは関係のない話なんだけど、俺が大学生だったころにアメリカのラスベガスに友人と旅行に行った話をしようと思う。
初めての海外旅行でテンションがあがっていた。
飛行機から見えるアメリカの風景でもうワクワクが止まらない。
日本とは違う
ラスベガスといえばカジノ。
ギャンブル漫画は大好きだが、パチスロも競馬もマージャンも何ひとつやってこなかった。
朝5時からパチンコ屋に並ぶ友人もいれば、競馬が大好きすぎて競馬サークルを立ち上げた友人やマージャン廃人もいたが、やってみようという気持ちになれなかったのである。
ラスベガスには本当にどこにでもカジノがあって、俺たちが泊まったホテルの地下にもあった。
「せっかくだからカジノ行こう!」
ということになり、一番わかりやすそうなルーレットに行った。
赤と黒の色、数字を当てていくやつである。
俺たちは、ローリスクローリターンの、他のお客さんからしたらなんともつまらない賭け方をしていた。
でも、初めての本場のルーレットだし、友人たちとああでもないこうでもないという話をしながら、めちゃくちゃ楽しかった。
3000円くらいなくなったところで卓を離れようとしたら、向かいに座っていたアメリカ人が片言で
「コンニチハ、バイバイ」
と言った。
コンニチハの使いどころがおかしいが、日本語で話しかけられてうれしくて、「thank you!」を連呼しながら手を振った。
今思うと、ケチな日本人がいなくなったなと思われていただろうな。
友人の一人が、勝ったお金でコーラをおごってくれた。
このコーラの味は覚えている。
さて、楽しかった旅行の話はここまでである。
そのあと、部屋でアメリカのお酒を適当に買い込んで飲み会をした。
俺はお酒が弱い。
すぐに酔っぱらった。
お酒に酔っていたが、ここまでの話でわかるとおり、初海外の雰囲気にも酔っていた。
なぜか俺はひとりでカジノに行った。
当時の俺は、1ドルを1円と勘違いしていたのかもしれない。
本当は1ドル120円である。(当時)
酔い覚ましもかねて、1000円をちょびちょび賭けて、ルーレットを楽しもうと思っていた。
が、現実は120円×1000ドル=12万円を賭けた男である。
先ほどとメダルの色も量も違うのだが、全然俺は気づかなかった。
最初の赤と黒の二択を選ぶ。
とりあえず黒に全部メダルを置いた。
俺の認識としては、とりあえずの1000円を確率50%の黒に置いただけである。
それだけなのに、さっきとは違う雰囲気に包まれた。
「Wow」と言いながら拍手された。
黒が当たった。
隣のアメリカ人が「GooD!」と親指を立ててくれた。
外した人も俺に拍手を送ってくれた。
俺は楽しくなってきた。
のと同時に、せっかく盛り上げてくれる周囲の人に喜んでもらわないといけないという使命感をなぜか感じた。
俺は考えた。
アメリカと言えばアメリカンドリーム。
やっぱり一発逆転の一点狙いだろう。
そして、アメリカのラッキーナンバーは7。
彼らの盛り上がりに答えるにはこれしかない。
俺は7にすべてのメダルを置いた。
そして何もなくなった。
「その日以来、俺はギャンブルがトラウマになって、一切やってないんだ」
奥さんと付き合う前、というか会って初日にこの話をした。
ギャンブルをするかどうか聞かれたのだ。
なので、このエピソードを短くまとめてお伝えした。
ちなみに酒に酔うのも怖くなった。
ギャンブルというか、レート換算できなくなったただの酔っ払いのクソエピソードである。
教訓も何もない。
「そうですか。よかったです! わたしもギャンブル一切やったことないです」
今のエピソードにどこにも良かった点などないと思うが、奥さんはそう言った。
むしろ俺の頭の悪さが
奥さんは
美容と服は大好きだが、100均とGUでそろえ、5000円を超える買い物は3日間考えぬいて購入する。
たぶんだけど、マッチングアプリで出会った人すべてに聞いた質問なのだろう。
こんなクソエピソードでも、彼女にとって正解だったのかもしれない。
そして、そのちょうど一年後、俺たちは結婚した。
2人が初めて会った日を入籍日にしたいと奥さんが言ったからだ。
「ひっちゃん大好き。結婚してくれてありがとう」
結婚記念日に、奥さんは俺にそう言ってくれた。
俺が告白したときに予約した記念のレストラン。
こうしてまた一緒に食事できるとは思わなかったな。
お互い好きで結婚できるってだけでも、すごい確率だと思う。
まじで脳内お花畑だなと思われるかもしれないが、世界80兆人の中から奥さんを引き当てたのは奇跡だと本気で思っている。
そして、結婚後もこうして幸せな思い出を積み上げている。
昔の俺には想像もできない。
今思えば、あそこで7に賭けてよかったのかもしれない。
あそこで下手に勝っていたら、ギャンブルに目覚めた人生になり、奥さんとは出会えなかっただろう。
そんな極端ではなくても、トラウマにならずにどこかでギャンブルにはまっていたかもしれない。
そうしたら、奥さんは俺を選んでいないだろう。
あそこでの7の一点張りは最大の不幸だったが、奥さんと出会えたことでもはやラッキー7である。
「俺も大好きだよ。こちらこそありがとう。これからもよろしくね」
「結婚はギャンブル」と尊敬する偉大なスポーツ選手がおっしゃっていた。
結婚がギャンブルだとしたら、俺は人生で初めて大勝ちしたことになるな。
そんなこと思いながら、レストランをあとにし手をつないで帰った。
奥さんと俺とギャンブルの話 脇役C @wakic
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