俺の幼馴染は、アンラッキー7

彼岸キョウカ

 

 俺の幼馴染、田辺裕太は特殊な体質だ。


 特殊、というより限りなく不運なだけなんだと思うが。


 裕太曰く、不運なだけではないらしい。


「おは……ぶへぇっ!」


「……おはよう、裕太」


 転んだ。バナナの皮で滑って。


 お前の家から俺の家まで5メートルもないのにな。


「ほら、早く行くぞ」


「うん。ありがとう、大輔」


 裕太の手を引っ張って、立ち上がらせる。


 さぁ、今日は学校につくまで何回悪いことが起きるかな。



——————————



 結局、学校につくまでに起きた悪いことは3回だった。


 最近晴れているのに何故できたのかわからない水たまりを車が走って全身ずぶ濡れになったり、信号待ちしている間に犬にオシッコをかけられたり、終いには校舎に入る直前に鳥に糞を落とされた。


「お前、よくそんなに不運なのに笑顔で過ごせるな」


 昼休み。裕太は購買での戦争で誰かに殴られたらしく、頬を腫らせながらなんとかゲットしたあんぱんを笑顔で食べていた。


「ちっちっち。何回も言ってるだろう、大輔クン。俺は不運じゃなくて、アンラッキー7だって!」


「はいはい、アンラッキー7様……」


 弁当持ってきたらいいのに、とも思うが、そういえばこいつが弁当なんて持ってきたら間違いなく学校につくまでに食えなくなるな、と思って考えることをやめた。


「今日は学校行くまでに5回、授業中に強風で教科書が窓から飛んでいったのが1回、さっき殴られたので一回、だから今日はもう良いことしか起きねぇじゃん!」


「それはそれは、良かったね」


 裕太の特殊な体質——自称アンラッキー7は、7回悪いことが起きると1回良いことが起きる。らしい。


 良いこと、と言っても道端に50円玉が落ちてたり、帰りにコロッケ買ったら財布を無くしてておばちゃんにおまけしてもらったり……7回悪いことが起きる、に対しての良いことがしょぼい気がするが。


 因みにこの体質は1日リセットだ。0時から始まって、悪いことが7回起きたら良いことが1回ある。その後24時までは良いことも悪いことも起きない。


 という、何とも変な体質だった。


 悪いことは本人にしか起こらないので、周りにいる人にまで災難が降りかからないことだけは良かった。


「じゃあ、じゃあ俺さ! 放課後までに良いことが起こらなかったら、リサちゃんに告白するわ!」


「ぶっげほっごほっ……はぁはぁ、お前、今なんて?」


 いちごミルクが気管に入ったじゃねえか、バカ野郎。


「俺さ、リサちゃんのことずっと好きだったんだよ。美人だし、賢いし、何より優しいだろ」


「あー……まぁ、そうだけど」


 前に一度、本田が裕太にハンカチを渡しているのを見たことがあったな……。確か、トイレの後に手を洗おうとしたら、蛇口が爆発してずぶ濡れになったんだっけ。


「お前が告白するんだったら、俺は校門で待っとくよ」


「オッケーわかった!」


 はぁ……上手くいくと良いけど。



——————————



 放課後。


 俺は裕太の好きなココアを買って、校門で待っていた。


「大輔〜振られちゃっだよ〜なんで〜」


「お、お疲れ様……」


 俺はココアとポケットから取り出したティッシュを裕太に渡した。


「まずはこれでも飲んで落ち着けって」


「ゔん……ありがど……」


 まぁ、こうなるよな。


「はぁ……なんで悪いこと起きたんだろ……もう今日は7回起きたのに」


「ほんとに7回起きたか確認してみたら?」


 いつもあんなに明るいのに、ここまで落ち込むとは。


「えーと、朝バナナで滑って、車に水かけられて、犬にオシッコされて、鳥にフン落とされて、教科書飛んでいって、購買で殴られた……って6回じゃん!」


「あーあ……」


「てことは、振られるの入れて7回か! じゃあ今日は良いことは起きるんだな!」


 あれ、もう復活したぞ。立ち直り早いな、アンラッキー7様は。


「そういえばさ、大輔はなんで俺と一緒にいてくれるの?」


「え? うーん、幼馴染だからかな」


 物心ついた頃にはずっと一緒にいたし、こいつのアンラッキーを見るのは案外楽しいからな。予想外すぎて。


「リサさんに、私だったら不幸ばかり起こるあなたと、ずっと一緒にはいられないわって言われたんだよ」


「なるほどね……」


「てことはさ、ずっと一緒にいてくれる大輔が俺の運命の人ってこと!?」


「は?」


 は?


「みんな俺の不幸が移るかもってあんまり近寄ってくれないんだよね……でも大輔はずっと一緒にいてくれた。これってさ、付き合うしかないでしょ!」


「待て……理解が追いつかない」


「絶対これが今日の良いことだよ! な! 俺達付き合おう!」


 振られたショックで頭がイカれたのか?


「お前、付き合うってわかってるのか? 男同士だったら、その、き、きすとか……」


 やばい、俺何言ってるんだろ。


「ずっと一緒にいる、だけでいいじゃん! これからもいろんなとこ遊びに行ったり美味しいもの食べたりしようぜ!」


 とびきりの笑顔で、小指をすっと出された。


「はぁー……わかったよ、たく」


 ここで断ったら、さっきより落ち込むだろうし。ずっと一緒にいるだけなら、まぁ。


 俺達はそっと指切りをした。


 雨なんか降ってなかったのに、綺麗な虹がでていた。

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