君は誰よりも正しい。

冬眠

君は誰よりも正しい。

 私は、惜しい人を亡くした。


 彼女はとても真面目で、私の元に置いておくにはもったいないと、常々言われ続けてきた。


 私は昔から、まともな考えを持たなかった。

 見方を変えれば、人間不信であるといわれても仕方がない。

 私は臆病で、不安が過ぎた。


 一つの行動を起こすにしても、逃げ道が一つ欲しくなってしまう。


 私は彼女と結ばれることに決まったとしても、いつ別れてもいいように、心と身の回りの支度だけは万全だったのだ。


 彼女は、いつも私を責めるのが得意だった。

 逃げられないように巧みな話術を使うのだ。


 彼女のそんな私とは対照的に違うところに、惹かれたのかもしれない。


 私は、どうして生き続けているのかということを常に考えていた。

 そんな無駄な思考も、彼女のお陰で使われなくなった。


 彼女は、私を夢中にさせることが得意だった。


 出会った当初から、私は彼女に釘付けだった。


 目を離そうにも、強そうな彼女の陰で垣間見える弱さが、心配で仕方がなかった。


 彼女は、自由な人だった。


 彼女だけが知っていた真実は、突然手遅れとなってから私の元に届いたのだ。

 私が、逃げることもできない現実を携えて。


 きっと、弱い私のせいだろう。


 そのせいで、彼女は一人で戦っていたのだ。


 彼女の生き方はあまりにも、真っ直ぐだった。


 自分の生き方は、しっかりと決めれる人だった。


 彼女の背中は、私よりもしっかりと伸び切っていた。


 私は現実から逃げたくて仕方がなかったが、彼女はそれを許さないだろう。


 だが、彼女の優しさを私は知っている。


 遺書には、私の分まで生きてと一言添えてあったくらいで、他は遺産について簡潔にまとめられていた。



 彼女の強さは、作られていたものだった。


 後々、彼女の知り合いから話を聞くと、私のために変わったのだと知った。



 彼女は、私のために鬼になれる人だった。

 私より先に亡くなるべきではない人だった。


 彼女は誰よりも正しい人だった。

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