君は誰よりも正しい。
冬眠
君は誰よりも正しい。
私は、惜しい人を亡くした。
彼女はとても真面目で、私の元に置いておくにはもったいないと、常々言われ続けてきた。
私は昔から、まともな考えを持たなかった。
見方を変えれば、人間不信であるといわれても仕方がない。
私は臆病で、不安が過ぎた。
一つの行動を起こすにしても、逃げ道が一つ欲しくなってしまう。
私は彼女と結ばれることに決まったとしても、いつ別れてもいいように、心と身の回りの支度だけは万全だったのだ。
彼女は、いつも私を責めるのが得意だった。
逃げられないように巧みな話術を使うのだ。
彼女のそんな私とは対照的に違うところに、惹かれたのかもしれない。
私は、どうして生き続けているのかということを常に考えていた。
そんな無駄な思考も、彼女のお陰で使われなくなった。
彼女は、私を夢中にさせることが得意だった。
出会った当初から、私は彼女に釘付けだった。
目を離そうにも、強そうな彼女の陰で垣間見える弱さが、心配で仕方がなかった。
彼女は、自由な人だった。
彼女だけが知っていた真実は、突然手遅れとなってから私の元に届いたのだ。
私が、逃げることもできない現実を携えて。
きっと、弱い私のせいだろう。
そのせいで、彼女は一人で戦っていたのだ。
彼女の生き方はあまりにも、真っ直ぐだった。
自分の生き方は、しっかりと決めれる人だった。
彼女の背中は、私よりもしっかりと伸び切っていた。
私は現実から逃げたくて仕方がなかったが、彼女はそれを許さないだろう。
だが、彼女の優しさを私は知っている。
遺書には、私の分まで生きてと一言添えてあったくらいで、他は遺産について簡潔にまとめられていた。
彼女の強さは、作られていたものだった。
後々、彼女の知り合いから話を聞くと、私のために変わったのだと知った。
彼女は、私のために鬼になれる人だった。
私より先に亡くなるべきではない人だった。
彼女は誰よりも正しい人だった。
君は誰よりも正しい。 冬眠 @touminn
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます