スロットマシン
仁志隆生
スロットマシン
最近暖かくなってきたかと思ったらまた少し冷えてきた今日。
仕事が終わり会社を出た後、二駅向こうにあるショッピングモールに寄って店を見て回っていた。
長い間思い続けて、やっと付き合えた幼馴染でもある彼女。
というか告白したその日、彼女も同じ事を言ってくれた。
あの時はカッコ悪いと思ったが泣いちまった。
お互いの両親にはもう公認で、むしろ「早く結婚しろ」と急かされるが、俺は彼女の誕生日にプロポーズしようと思っている。
それまでにいい指輪買っておかないと。
彼女はサプライズの方が喜ぶからな。
「うーん、あそこのもよかったけどなあ。たしかあと二軒あったよな……ん?」
ふと見るとゲームコーナーがあった。
店先にある立看板の絵が今風じゃなくて昭和レトロっぽい。
へえ、あんな店あったんだ。
よし、ちょっと息抜きに覗いていこ。
中に入るとやはり古い感じのアーケードゲームばかりが置かれていた。
うわ、侵略者ゲームもあるわ。
こんな店だったらマニア受けしそうなのに、平日だらか人がいないなあ。
と思っていたら、なんかスロットマシンで遊んでいる女の子がいた。
よく見ると小学生くらいに見えるが、親御さんらしき人は見当たらない。
この時間で一人でだと条例違反じゃねーか?
店員さんも見当たらないし、どうしたもんかなと思った時だった。
「うー、全然出ないよー!」
女の子が悔しそうに台を叩き出した。
ってあれはいかんだろ。
流石に注意しようと声をかけた。
「ねえ君、そんな事したら壊れちゃうよ。やめなさい」
俺がそう言うと、
「うー、でも出ないもんー」
こっちを向いて膨れっ面で言う。
「出ないって、当たりが?」
「ううん。これね、普通のと違う隠れ当たりがあるの。さっき綺麗なお姉さんが当ててたの」
「へえ。って君、こんな時間まで一人でいたの? おうちの人は?」
「……いないよ。どこにも」
そう言ってうつむきがちになった。
え、この子もしかして?
どうしよ、店員さん呼んでくるかいっそインフォメーションへ連れて行くか?
「出たら行くから、言わないで」
女の子は俺の考えを察したようで、うつむいたまま言う。
「そう言われてもね……」
「じゃあ、お兄さんがこれやってくれたら言うとおりにする」
「は? 俺がやっても当たるとは限らないよ?」
「当たらなくてもいいから、やって」
そう言って俺の手を引いた。
「……うん。分かったよ」
もしかすると誰かと一緒にやりたかったからそんな事言ってるのかもな。
ま、言うとおりにするか。
俺は両替機でメダルを買い、スロットマシンの前に座った。
これもまた古いな。アナログでボタンもちゃっちぃな。
けどこれなら妙な改造はしてなさそうだから、いけるかも。
始めてから何度か回して……お、スリーセブンが出た!
「あー、それ違うよ~」
「え? ああそうか、隠れ当たりって言ってたね。それってどんなの?」
「えっと、赤くて黒いのが揃うの」
「は? まあ、やってみるよ」
その後は全然当たらんかった。
くっそ、これ結構難しいかも。
そうこうしているうちにメダルがあと一回分になった。
これでダメなら終わりだな。
……ん?
7が揃ったが、さっきのと違ってなんか赤黒っぽい……あ。
「あ、出たー!」
どうやらそうだったらしいな。
「よかった。ねえ、これって何?」
「アンラッキー7だよー!」
「は? それだと不幸じゃんか?」
「そうだよ……ぬふふ」
「え、うわあっ!?」
女の子がなんか妙な笑い声を出した途端、スロットマシンからブワッと黒い煙のようなものが吹き出してきた。
俺は思わず尻餅をついた。
「ぬふふ……お兄さんありがと。夕子お姉さんのだけじゃ足りなかったからどうしよっかなと思ってたの」
「え、え?」
『夕子』って、俺の彼女と同じ名前?
「そうだ。お礼するね」
女の子がそう言って、俺の額に手を……。
あ……。
「ぬふふ……お兄さんとお姉さん、お揃いでよかったね」
少女は手にした二つの指輪を見て、妖しい笑みを浮かべていた。
「さてと。これで……ぬふふふふ」
先程の黒い煙のようなものが広がっていく。
ゲームセンターだけでなく、どこまでも……。
スロットマシン 仁志隆生 @ryuseienbu
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