第12話 犯人は誰?

「……それなら、今から犯人探しを始めよう」

鞄の中から霧吹きを取り出す。気分は憧れの探偵ロジャー。周囲の人間は物語の脇役で、主人公はゆうこ、容疑者は四人。そうだ、それなら堂々と笑える。

「まぁ当然、わたしは見当がついているのだがね。君たちは証拠を見せないと納得しないだろう?」

不遜に笑えば、脇役の彼らは映画のエキストラのように動揺を伝播させてくれる。助手のマサトくんがゆうこの場所を開け、ゆうこはそこに胸を張って立つ。

「全く仕方がないね……さて容疑者諸君。犯人とされたくなければ、今日使った自分の体操服を用意してくれたまえ」

黒板に寄りかかって腕を組む。こんな非常事態だからか、様子のおかしいゆうこの言うことも素直に聞いてくれるようだった。或いは、犯人扱いされたくないだけなのか。

「……こんなのでいったい、何が分かるの? 犯人はもう洗浄を済ませたんでしょう」

「それについても、後で説明しよう」

「ゆうこキャラ変わった〜?」

「探偵だからね」

真っ先に渡しにきたさくちゃんとありさちゃんがゆうこと軽く話して戻っていく。そうたくんとさかえくんは何も言わず体操服を直接は渡さず机の上に置いていった。

さて。四枚揃った真っ白な体操服。ゆうこはその白さに特に動揺することなく、霧吹きを持ち上げた。

「さて、と。とは言えとても簡単なことだよ。この霧吹きの中身を、体操服に振りかけていくだけだ」

マサトくんが甲斐甲斐しく机へ並べていく体操服は、皆一様に白い。ゆうこの異様な空気に飲まれたのか、やはり世界が壊れることを恐れているのか合いの手は入らない。

「これはルミノールと炭酸カリウム水溶液を水に混ぜ作ったものだ。市販のものでは高いので理科室を使わせてもらったよ。後でお礼を言っておいてくれたまえ」

シュッ、シュッ、シュッ。もったいぶってかけていく霧吹きの音がやけに響く。クラスの誰もが息を飲んでことの顛末を見守っていた。

「……そろそろ、良いかな」

あごを撫でる音が妙に響いた。マサトくんと合図すると、あっけなく電気は消え──

血液の形に、ひとつだけ青白く体操服が浮かび上がる。

「ルミノール反応は知っているかい?」

息の詰まるような沈黙と暗闇に、ゆうこの気取った声だけが流れていった。

「刑事ドラマが好きな子は知っているだろう。吹きかけると血液に反応して光るアレだ。あれは化学発光と言って、どれほどしっかり洗われていても、血液中のヘムという物質に反応してこうやって光る」

目に見えて綺麗になったとしても細胞片は残るのだ。それをありありと見せつけるように、先週鼻血を出したうさぎちゃんの体操服が青白く光り輝いていた。

ゆうこは予想通りの犯人に軽くため息をついてゆっくりと口を開いた。だから、犯人探しは嫌なのだ。


「──櫻井朔さん。きみが、この事件の犯人だね」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る