薪
—— 火は良いものだ。小さく大きく踊って辺りを温めて、全てを炭という概念へと誘ってくれる。利口で着飾ったクソ供も畜生地味た我々も辿りも進みもし尽くせば結局同じモノだと思い出せてくれるのだから………… 、あぁ火は良いもんだ。
ワシはだからと言って始終ここに居る訳では無いはずなのだけんど、払拭できない根底からどうも惹かれてしまっているのだろう。つい、薪の袂、誰かが拾ったふかふかのソファに座って日々を過ごしている。
今日も今日とて面白いことなんて無いさ。あるわけなんて無いわけだ。いつもの様に、毎度の如くの1日が終わる。目に落とされていく火の果てと同じ。白とも黒とも言えない炭の様な出来事ばかり……………… 。
決まった場所に居るというのも考えもん—— が、あやつらの為に日々の理を変えるのも癪なもん—— だ。ピーチクパーチクごちゃ混ぜに語っていくだけの輩供。キチガイ婆ぁへの苦情だの、魔王が救いに現れたなんて戯言も、間引きをするという宣言も全てワシに伝えて満足そうに消えていく、…………面倒なもんだ。ワシみたいな年寄りに言ったとて解決なんてしないもんばかりなんて判っておるだろうに…… 本当、面倒なゴミ供だ………………………
—— また来たか。こいつは………アトリか。珍しいもんだ、面倒ごとを持ってきたか?
ガキを拾った?どうでも良いこと…… あぁ、良くは無い。間引きがそろそろ始まるのだった。本当に面倒だ。これ以上増えたら面倒なのだ。
「 赤ん坊を連れてこい。預かってやる」
「 ………俺が欲しい」
「…… ? お前の所にはトーアが居るだろう? 」
「トーアは兄貴のだ。俺のじゃ無い」
飢えたネズミの様な嫌な目で見やがる。火に踊らされてどいつもこいつも卑しい事この上ない。
「そうだな、アレはお前のじゃあ無いな。だが、とりあえず連れてこい。話はそれからにしてやる」
踵を返して轟々と鳴る水路の縁をアトリはネズミの様に駆けていった。さぁて、まぁ良い。理由なんてごまんとあるさ。捨てられた赤ん坊への情なんて、ましてや10やそこらのガキ相手だ。たかが知れちゃあいるってもんだ。
——————
「 —— これはダメだ。腐ってやがる、これを見てみろ。この痣の形は良く無い証拠だ」
「腐ってなんか無い! さっきは無かった。ジジィが触ったから出来たんだ」
「ぃいや。これは移り病。すぐ死ぬ」
「死ぬもんか! 」
「トーアにも、お前の兄貴にも移ってしまうぞ? 」
なんとも他愛ない。黙りこくってアトリは下を向いた。
「まぁ良い。知り合いの医者に見せてやる。それで治ったらお前たちの所に返してやろう」
泣いたカラスがなんとやらだ。顔を上げたアトリの目には水気を帯ている。黙ってこくりと頭を下げる。これで終わりだ。やはり他愛もなし。
「お前の仕事はまだ終わってないのであろう? さっさと終わらせて帰りな。まぁた上の奴らが騒いでいやがる。見つかったら面倒なのは知っておろう? 」
あぁ、嫌なモノだ。捨てられたのを拾い集めて愛しむ性根というのは。シワがれた心に氷水の様に染み渡っていくのに似た悪寒で身震いしてしまう。しかし、ガキ故に仕方ないものなのだろう。こんな下水に身を置いているからなのだろう。ドブネズミの様な性根になるのは致し方ないのかもしれん。
事は終わりだ。捨てられたお前も難儀だったろう。もう終わるのだ。火に抱かれ炭となり、ひと足先に幸いに身をやつせ。
——なぁに。もうすぐだ。怯えずとも良いんだ。
………しがみつくのか? 良い事は無いぞ。まだ生まれて間も無いというに未練がましい赤ん坊だ。———焼かれた側から治していやがる。
泣き叫んでも、いつもの事だ。だれも気にはしないのだよ。
「……俺を………」
言葉を発すか。面倒な赤ん坊。さっさと還りな……… 。
………
………………
………………………
……………………………… 。お前もか……… 、あぁ面倒だ。この上なく面倒だ。こんな世界に何を期待してやがる。………まぁよい。ならば苦しめ。生きて、後悔と共に歩めよ赤ん坊。
あぁ、面倒だ————————
魔王からの贈り物 -アトリ- グシャガジ @tacts
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