幽霊さんの過去

『ねえ、アンタはいや?』という言葉が僕の脳内にずっと反響している。しばらくボケーっとしていると、ぽつぽつと幽霊さんが自分の過去を語りだした。



 ***



 アタシは、アタシがいつからこのトンネルにいるのか分からない。というか、そもそもなんでアタシが幽霊になったのかも分からない。

 でも、はっきりと覚えているのは親が二人とも毒だったという事だけ。伊織の親みたいに、連絡もなしにどこかに泊まってくる事を怒ってくれるような親でもないし、かといって、酒やたばこに溺れて虐待をする訳でもなかった。

 とにかく、両親は二人とも私に無関心だったのだ。

 それに気づいたがいつかも覚えていない。でも、それに気づくまでは親に反応してもらいたくて全部をがむしゃらに頑張っていた気がする。

 でも、今考えれば、親としての責務は果たさなくても、自分たちに生まれた新しい命を殺そうとしないだけましだったのかもしれない。

 いくら無関心でもご飯を買うお金はおいてくれていたし、必要最低限の物は買ってもらえたような気がする。

 もうはっきりと覚えていないから曖昧だが。

 そうして親に反応してもらおうと頑張りながら生活していた時、何かの拍子に幽霊になってしまったのだと思う。

 微かに覚えているのは、高校かいつかは忘れたが、毎日の様に夜遊びをして、朝帰りしていた時期があった。

 推測するに、その時につるんでいた男にでも殺されたか、なんらかの理由でアタシが自殺したのだろう。

 そして、その現場がこのトンネルだったのだ。

 事実、このトンネルの奥の方には血痕と、切り刻まれた制服のかけらが放置されている。

 この推測が一番近いのかもしれない。

 そして、気が付けばアタシの体は半透明で宙に浮きながらこのトンネルで生活していた。ここにあるソファ等は、山を駆け回り、不法投棄されていた物を回収して使っている物だ。ティーカップやテーブルも。

 アタシには必要のないものだが、無意識のうちに集めていた。

 無意識のうちの事なので覚えていないが、だったらそれらしい理由で自分自身を納得させればいい。

 だから、アタシはこう思う様にしている。



 ***



「だから、その私を解放してくれる誰かが、アンタのような気がするだけよ。ごめんなさいね。ここに引き留めて」

「そんな辛い事があったんだね」

「別につらくはないわよ?だって、ほとんど覚えていないんだもの」


 幽霊さんはそう言うが、そういう声色には若干の悲しさの様なものが見え隠れしているような気がする。

 そして、幽霊さんがもう一度言ってきた。


「ねえ、アンタはいや?」

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