寝起きのテンション

 次の日の朝。

 僕は朝の山奥独特の香りで目が覚めた。

 もちろん、幽霊さんは浮いて寝ていると思ったのに......


「なんで僕の隣で寝てるの!?」

「ふやあ。あ、おはよう。案外起きるの早いんだねー」


 幽霊さんはあくびをしながら、眠そうな体を起こした。

 小さな声を出しながら、伸びをする幽霊さん。

 でも、なんで僕の横で寝ていたのかは教えてくれなかった。


「ふぁー......」


 トンネルの淡い光に照らされる幽霊さんの寝ぼけた横顔はとても可愛かった。


「か、かわいい......」

「何か言った?」


 僕の声が聞こえていたのか!?

 大分小さい声で言ったつもりなのにな。


「まあ、聞こえてないと思ったら大間違いだけどねー」

「ふぁっ!?」


 幽霊さんが笑いながらそう言って来たのに対して、僕は奇声を上げて驚いた。

 しかも、そこそこの声量があったので、声がトンネルに谺してまだ聞こえている。

 山奥だから良かったものの、これが家だったら確実に怒られているだろうな。


「アンタ、中々の声量で叫ぶのね。ここが山奥のトンネルだから良かったけど、これが一般的な住宅地とかマンションだったら、通報されるわよ」

「ご、ごめん」

「今から通報してあげてもいいのよ?」

「それはやめて欲しいです。でも仮に通報するとして、電波入るの?」

「そこらへんはアタシの幽霊パワーでどうにかするわよ」

「幽霊パワー!?そんな力があるの!?」

「朝からそんなテンションでよく突っ込めるわね」

「指摘する場所そこなの?」

「朝ごはん納豆でいい?」

「文脈どこ行った!?いやまあ、もう帰るけどさ。悪いけど朝ごはんは遠慮しとくよ」

「ちなみに幽霊パワーなんてないわよ」

「今になってかえすの!?」


 どうやら僕は朝からしっかりと突っ込める人種みたいだな。いつかこの人種が役に立つ日が来ると信じておこう。

 幽霊さんにもしれっと言われたし。

 取り敢えず帰らないと、親に怒られちゃう。

 まあ、もう怒られる事は確定なんですけどね。


「で?どうするの?帰るの?もうちょっとアタシに付き合ってくれてもいいのよ?」「うん。でも親が多分心配してるのと、僕に説教したくて、うずうずしてると思うから帰るよ」

「説教が待ってるのに、よく帰ろうと思えるわね。ていうか、息子に説教したい親って、中々の毒親じゃない?」

「まあ、連絡もしないでどこかに泊まってくる息子がいたら、誰でも説教したくなるでしょ」

「それもそうね。まあ、アタシにそんな親がいたらいいんだけど......」


 僕と幽霊さんはそんな会話を交わしながら、使った布団を片付け、トンネルの外に出た。

 でも、外は大雨が降っていてとてもじゃないが帰れそうにない。


「なんで!?ついさっきまでいい天気だったじゃん!」

「山の天気は変わりやすいからねー。ま、雨があがるまでゆっくりしていきなよ」

「うん。そうさせてもらうよ......」


 説教したくてうずうずしてるんじゃなくて、説教確定だろうなー、いや既に説教は確定されてるんだった。

 何てことを思いながら、僕は幽霊さんとトンネルに戻った。



 ちなみに戻っていくときの幽霊さんの顔はとてもうれしそうでした。



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