第10話 ドワーフの村 シデラス2
「これが、炎鉱石……」
メランの武器を作るのに必要な炎鉱石を採取することができた。
俺達は炎鉱石のあまりの美しさに見とれる。
光にさらすと、紅色に輝き、どこまでも透き通っている。
「我も炎鉱石というものを見るのは、これが初めてだ。 まさかこれほどまでに綺麗なものだとは思わなかった」
「私もこんな鉱石があるだなんて、初めて知りました!」
メランもカルディアも、炎鉱石を目の前で見るのは初めてのようで、二人とも目を丸くしている。
宝石について人並みに知識はあると思っていたが、これほどまでに美しい鉱石を見るのは初めてだ。
ドラゴン化したメランに乗って、ソンチョさんの家に戻る。
持ち帰ってきた炎鉱石を見て、ソンチョさんは驚きを隠せないようだった。
「ま、まさか本当に凶悪な魔物を追い払い、炎鉱石を持って帰って来るなんて! 腕利きの冒険者様なのか!?」
ソンチョさんと若いドワーフが、炎鉱石を目にして驚愕している。
まあ、実際凶悪な魔物というのはメランの知り合いのルベルで、ルベルを抑えることが出来たのは、メランとカルディアが協力してくれたおかげだ。
「ともあれ、これで黒龍でも使える武具を作れるんですよね?」
これ以上話を引っ張ると、話が進まないと思い、話題を変える。
「ああ。 多少時間はかかるが、炎鉱石があればドラゴン族最強の黒龍でも何でも扱うことができる武具ができるはずだ。 急ぐようなら、すぐにでも作業に取り掛かるが」
ソンチョさんは、炎鉱石を手にしながら言う。
これからどこに行こうかという目的もまだ決まっていないし、メランの武具ができるまで、この村でゆっくりさせてもらうとするか。
「特に急いでませんので大丈夫です。 できるまでの間、この村で待ってますのでゆっくり作ってもらえればと思います。 その代わり、最高品質の物を作ってくださいね?」
「無論、そのつもりだ」
ソンチョさんと俺は、がっちりと握手をする。
しばらく、ドワーフの村で過ごさせてもらうことにした。
若いドワーフの名前は、ナノスと言うらしい。
どうやらソンチョさんの孫だったようで、あの言い合いも、もしかするとソンチョさんの事を思って言ったのかもしれない。
「あ! ナノスだ! ナノス兄ちゃん、遊んでよー!」
子供ドワーフ達が、ナノスにすり寄ってきた。
ナノスは、子供に好かれる性格なのか。
「今日は、遊んでくれるんだよねー?」
「俺にも鉄の打ち方、教えてくれよー」
え? 今、鉄の打ち方って言った?
こんな小さいころから、鉄の打ち方を教えているのか。
だから、この村が独特な匂いになるんだな。
「ごめんな。 今日もやることがあるんだ」
「えー! 兄ちゃんいつもそう言って遊んでくれないじゃんかよー」
「本当にごめんな」
ナノスはそう言って俺達と別れた。
その後ろ姿は、どこか寂しげに見えた。
「じゃあ、そこのお兄ちゃんたちでいいや」
子供ドワーフの一人がそう言った。
おい、今聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ。
鉄の打ち方よりも、もっと他に教えるべきことがあるんじゃないのか?
「お兄ちゃんたちなら、俺たちの遊び相手になってくれるよね?」
「ちょっとだけ! 少しでいいからあ!」
「僕たち退屈してるんだよー!」
「お願いだよぉー」
子供ドワーフ達は口々に言い出す。
俺はメランとカルディアに目線を移す。
「まあ、いいんじゃないですか? メランの武具ができるまではここにいることですし」
「我もカルディアと同意見だ。 それに子供ドワーフだ。 黒龍の我がいれば何の問題もない」
二人は賛成のようだ。
仕方がない……か。
「分かったよ。 ただ、危ない事だけはするなよ?」
『やったぁぁー!!』
子供ドワーフたちが大喜びする。
こうして、なぜか俺達は子供ドワーフたちと遊ぶことになった。
「それじゃあ、何して遊ぶか決めようぜ!」
一人の子供がそう言うと、他の子達も楽しげに話し合う。
子供ドワーフ達は勝手に盛り上がっている。
一体何をするつもりなんだ……
「昨日は鬼ごっこをしたし、今日はかくれんぼしよー!」
「いいね! やろうやろう!」
「じゃあ、お兄ちゃんが鬼ね!」
強制的に俺を鬼にされ、子供ドワーフ達はみんな散らばる。
この世界にも鬼ごっこやかくれんぼなるものが存在するようだ。
メランとカルディアもかくれんぼに参加するらしく、俺から離れ隠れる。
俺はその場に一人になってしまった。
「ああ、俺がかくれんぼの鬼だから、みんなを探しにいかないといけないのか」
俺は隠れているみんなを探すために、色んな所を歩き回った。
数十分後、子供ドワーフのほとんどを見つけ、メランとカルディアも見つかった。
だが、あと一人子供ドワーフの少女が見つからない。
「おーい! もうみんな集まってるんだー! 戻ってこいよー!」
「そうだよー! みんな待ってるぞー!」
子供ドワーフ達が呼び掛けるが、返事がない。
だんだん不安になってきた。
もしかすると、何かに巻き込まれているのではないかと思うようになってくる。
それを口に出すようなことは絶対にしない。
それをすることによって、この場が混乱するのが目に見えて分かるからだ。
だから、あえてそのことを口に出さない。
「ユウさん、これって――」
「カルディア、それ以上は言うな。 俺達ならともかく、子供達がいる前では絶対に言うな」
何かに気づいたカルディアに警告をする。
カルディアは、何も言わず小さく頷いた。
「君たちは秘密基地にいてくれ。 俺達がその子を探して来よう」
「それなら俺達も――」
「ダメだッ! これ以上何かあれば、俺は責任を取れない」
一緒に行こうとする子供ドワーフを止める。
言い方が少しきつかったかもしれないが、ここまで言わなければこいつらはついて来ようとするだろう。
子供ドワーフ達はみんな黙ってしまった。
俺の真剣な表情が伝わったのだろう。
「分かった。 お兄ちゃんたちに任せるよ。 絶対に連れて帰ってきてね」
「ああ、もちろんだ」
帰ってこない子供ドワーフの少女を探しに行く。
俺達はまだ探していない場所を探すが、そのどこにも少女は見つからない。
「どこにいるんだ!?」
「ユウ様、まだ焦るような時じゃない! 落ち着いて周りに耳をすますのだ」
「ユウさん! 何か聞こえます!」
カルディアが、何かに気づいたように俺に言ってくる。
俺はとっさに耳をすませる。
「――! ――て!」
何を言っているかまでは分からないが、微かに少女っぽい声が聞こえた。
俺達は声を頼りに、その場所に向かう。
声の聞こえた場所には、その少女がいた。
「大丈夫か!?」
どうやら魔物を捕まえるためにドワーフたちが仕掛けていた罠に、少女は引っかかってしまったようだった。
俺は少女が引っかかっていた罠を外してあげる。
少女は足にケガを負っているらしく、カルディアが回復魔法をかけてあげている。
「助かりましたぁ! まさか、こんなところに罠が仕掛けてあるだなんて思わなかったですぅ!」
少女は俺達にお礼を言う。
まあ、大事になっていなくてよかった。
少女を背負いながら子供ドワーフ達の元に戻った。
帰ってきたのを確認した子供ドワーフ達は、喜びを露にした。
そして、子供達は一斉に少女に抱きつくと、みんな涙を流す。
そんな光景を見て、俺も心から良かったと思う。
それから、子供ドワーフ達と遊ぶことが多くなった。
どうやら、子供ドワーフ達に気に入られてしまったようだ。
そんな生活をしばらく続けていた頃、ナノスに呼び止められた。
「毎日、子供ドワーフと一緒に遊んでくれてありがとう。 ソンチョが武具ができたから、ユウ達を呼んでくれとのことだそうだ。 かなり上機嫌だったから、それ相応の物が出来たのだろう」
ついに出来たか!!
俺はすぐさまソンチョさんの家に向かった。
「おう、来たか。 出来てるぞ。 とんでもないものが」
ソンチョさんは俺に向けて、にっこり微笑んだ。
その顔は少し痩せこけて見えた。
「その顔! まさか無理していたんですか!?」
「なあに、そんなに無理はしてねえさ。 三日間ほど寝ずに作ってただけだ」
三日間!?
俺でも、三日間ずっと起きて何かするなんて事はできない。
出来てせいぜい一日半くらいだ。
家に帰れば、バイトの疲れですぐに眠ってしまうからな。
そんなソンチョが作ってくれたメランの武具は、小さな剣だった。
「これは……?」
「まあ見てみな」
手渡された小ぶりの剣を鞘から引き抜くと、中から現れた刀身は光を浴びると紅色に輝く素材でできていた。
刃渡りは約10センチ程度だろうか?
薄くしなりがあり、とても軽く扱いやすそうだ。
メランに渡し、触り心地を試してみるよう言う。
ドラゴンの姿になれば、それこそが武器になるためドラゴン化した時は必要ないかもしれない。
というか、ドラゴン化した時は、こんな小さな剣を扱うことができない。
「これはいいな! この姿の我でもちゃんと戦えることが出来そうだ」
「そうか。 気にいってくれたみたいで、よか、った……」
突然、ソンチョさんはその場にばたんと倒れてしまった。
何事かと、俺達は慌てて駆け寄る。
「ぐう……」
どうやら疲れて眠っているだけのようだ。
眠っているソンチョさんに礼をし、その場を後にした。
この村にいる必要はもうなくなってしまったため、新たな地に出発することにした。
ドワーフの村、シデラスを離れる際、子供ドワーフ達に呼び止められる。
「お兄ちゃんたち、また来るよね?」
「ああ、今度来た時はもっと楽しい遊びを教えてやろう」
「ほんと!? 楽しみ~!」
子供ドワーフ達の頭を一通り撫でてあげる。
みんな嬉しそうな顔をして喜んでくれた。
「お兄ちゃんたち、バイバーイ!」
俺達は、子供ドワーフ達が見えなくなるまで手を振り続けていた。
こうして俺達は、ドワーフの村シデラスを後にしたのだ。
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