第9話 ドワーフの村 シデラス

さすがの王都、武具も最高品質のものが並んでいる。

どれもこれもが光り輝いて見える、というか実際輝いている。


「さあ! 好きなのを選んでくれ! どんなものでも買ってやろう!」


二人にそう宣言する。

機嫌を損ねてしまったカルディアが、こんなことで機嫌をよくするとは思っていないが、これぐらいはしてもいいと思っている。

強い武具を買えば、それだけ二人が傷を負うことが少なくなるのと道理。

この武具選びは、今後の俺たちにも関わってくるのだから。


「カルディア、この辺とかどうだ? この短剣ならカルディアにも使えるんじゃないか?」


カルディアに一本の短剣をおすすめする。

その短剣はカルディアが俺と初めて出会ったときに持っていた短剣と似ており、使いやすいのではないかと思ったからだ。


「そうですね。 この短剣なら私にも使えそうです。 でも、私は魔法が使えるので出来れば杖みたいなものがいいんですけど」

「杖、かあ……」


再び、カルディアが気に入りそうな武具を探す。

一方メランは、兜を被ったり、明らかにぶかぶかな靴を履いたりして遊んでいた。

おい、ここにはメランとカルディアの武具を整えるために来てるんだぞ。

遊びに来たわけじゃないんだが…… 

しかし、その様子はとても楽しそうだ。


しばらく探していたが、どうもしっくりするものが見つからない。

一体どうするべきか……


「お困りですか?」


ぬっと俺の前に男が顔を出した。

恰好からして、この武具屋の店員なのだろうが、そんな出方をしなくていいじゃないか。


「ええっと、この子に合う杖を探してまして。 何かおすすめはありませんか?」

「これはまたとても綺麗なお嬢様ですな! ですが、お嬢様に杖は似合いません。 これとかどうでしょうか? 少しお高めですが、それなりに使えるかと」


店員が差し出したのは、一個の指輪。

その表面には精緻に彫られた魔法陣があり、宝石も埋め込まれている。

この指輪は定期的に魔力を補充してくれる物らしい。

これから色んな場所を回るのだし、魔力を補充してくれるのは非常に助かる。

カルディアはこの指輪に決めた。


さて、残るはメランなのだが……

メランは自分の武具なのに、探しもせずただただ遊んでいた。

遊んでばかりじゃ、見つかるものも見つからないぞ?


「おお!! まさかその子は黒龍では!? 噂には聞いていましたが、ここまで凄まじい迫力なのですな!」


店員は目を丸くして驚いている。

メランも、男の人に見られポカンとしている。


「ドラゴン族最強の黒龍様が扱うにふさわしい武具は、この王都一の武具屋でも取り揃えておりません。 ですが、ここから西へ渡った所に、シデラスというドワーフの村があるんです。 そちらでなら、黒龍様でも扱えるような武具を、必ずや作ってくれるはずです!」


黒龍様と呼ばれ、メランはニコニコ顔で俺の方を見る。

はいはい、良かったな。

カルディアは俺が買った指輪をはめ、うっとりとした表情をしていた。

そんなに嬉しかったのか。


そして、俺達はメラン専用の武具を作ってもらうため、ドワーフの村に行くことにした。

店員さんが渡してくれた地図を確認すると、確かにシデラスと書いてあった。

というか、王都の名前ってアルモニアって言うのか。

初めて知ったんだけど。


ドラゴン化したメランに乗って、西に進むこと数十分。

俺達はドワーフの村シデラスに着いた。

村のあちらこちらから、鉄を打っているような金属音が響いているし、どこか村全体が鉄臭い。

カルディアもメランも微妙な顔をしている。


鍛冶などに力を入れすぎているせいか、そこかしこに草が生え散らかっている。

本当にこの村でメランが扱えるような武具を作れるのか、若干不安になる。


そんなことを考えつつ、村を歩いていると、一人のドワーフに出会った。

背丈や顔の感じから、そう歳は取っていないようだ。

俺は若いドワーフに話しかけてみる。


「あの、黒龍でも扱えるような、頑丈な武具を作ってほしいんだけど」


僕の問いに対し、若いドワーフは大きく笑いながら答える。


「はっは! そいつぁ難しい注文だな!」

「……やっぱり、無理かな?」

「いやいや、そうじゃねぇよ。 俺にそんな大層な物は作れねえってことさ。 ソンチョなら作れるかも知れねえが。 行ってみるか?」


そう言われると、行かざるを得なくなる。

俺達は若いドワーフの後をついていく。

若いドワーフの後ろ姿は、俺の何千倍もかっこよく見えた。


「ここがソンチョの家さ。 くれぐれも失礼のないようにな」


若いドワーフは、わざわざ家まで案内してくれた。

ソンチョの家は他の家と大差なく、普通の煉瓦の家だ。


「ソンチョ、俺です。 入りますよ」


若いドワーフは、扉をノックし入る。

頭を下げながら、お邪魔させてもらう。


「何じゃい、こんな時間から」

「こんな時間って、もうお昼過ぎてるんですよ! いつまで寝てるんですか!」

「儂は夢の中で鍛冶ができるから、何も心配いらん」

「そんなこと、見たことも聞いたこともありませんよ!」


ソンチョと呼ばれる人物はかなりの老人のようで、長い白いひげを三つ編みにしている。

少しばかり頑固のような気もするが、腕だけは良さそうだ。


「こんな時間にすみません。 私はホシミヤユウという者でして、黒龍でも扱える武具を作れる職人がこの村にいると聞いて、やってきたのですが。 どうもここにはいないようですね」


少し煽りを入れてみた。

上手く乗ってくれるといいのだが……


「何ぃ!? この儂よりも最強の武具を作れる者などこの村に存在せぬ! どこのどいつじゃ!」


これまで寝転がっていたソンチョは、即座に目を覚ます。

上手く乗ってくれて良かった。


「そうですよね? ソンチョさんより鍛冶が上手い人がこの村にいるはずないもんですね! そんなソンチョさんに頼みがあるんですが……」


俺がうまく誘導しているのを見て、カルディアとメランはポカーンとした表情をしていた。

若いドワーフも、ソンチョを上手く丸め込むことが出来ている俺を見て感心している。


「なるほど、事情は分かった。 だがな、今は素材を集めに行くことが出来んのじゃ」


ソンチョさんは残念そうな顔をして言う。

何か特別な事情があるのか?


「それについては、俺から説明しましょう! 新しく物を作るには何にしても材料が必要。 それは鍛冶でも同じことが言えます。 この度、その材料を取りに行く場所に凶悪な魔物が出現しており、誰も近付くことができないのです。 新しい武具を作るにはその魔物を何とかしないといけない、ということです」


なるほど、丁寧な説明ありがとう。

つまりはその魔物を何とかすれば、メランでも扱うことができる武具を作る材料が手に入る訳か。

どんな魔物か詳細は分からないが、ここまで来て行かない手はない。


「それなら、俺達が行きますよ!」

「おお! よろしいのか?」

「ええ。 元々は俺の仲間の武具を作るためにこの村に来たんですから、何もせずに帰るだなんてそんなこと出来ませんよ」


こうして、魔物が住みついている洞窟へ向かった。

奥へ進むと、ようやく魔物の姿が確認できた。

が、あれは……


「何だ。 魔物というのはルベルのことだったのか」


そこには全身が真っ赤のドラゴンがいた。

なぜか周りを警戒しているらしく、やたらとキョロキョロしている。

メランの知り合いとならば、何とかしてくれるだろう。


「ルベルはドラゴン族の中で二番目に強い赤龍の一人だ。 少し話をすれば、すぐにでも退いてくれるだろう」


メランはそう言い、ルベルの方に近付いていく

ドラゴン族は上から黒龍、赤龍、白龍、緑龍の順で強さが決まっているらしい。

赤龍は目の前にいるが、今後、白龍や緑龍と会う機会があるのかもしれないな。


そんなことを考えていると、何やらメランとルベルの様子がおかしいことに気づいた。

何事かと、メランに呼び掛ける。


「どうかしたのかー?」

「大変だユウ様! ルベルが、ルベルが我の話を聞いてくれないんだ!!」

「ごああああああああ!!」

 

これは大変だ! 

ルベルは周りを気にせず、炎を吐いている

このままだと、材料が熱で溶けてしまう!

何とかして止めないと!


「行くぞ、カルディア!」

「は、はいッ!」


遠くから見ていた俺達は、ルベルを抑えるためにメランが必死になっているところに走る。

ルベルっていう赤龍は、こんなに暴れん坊だったのか?


「元々、赤龍は血気盛んな性格をしている者が多いが、ルベルに関してはそんなこと一度もなかった!」


ということは、異常事態だな。

どこか苦しんでいるようにも見えるし、もしかすると何者かに操られているのかもしれない。


「ユウさん! 今ですッ!」


カルディアとメランが作ってくれた隙をつき、俺は勇者の剣を振る。

その瞬間、バリアのようなものが張られた気がするが、勇者の剣には敵わなかったのか破れ散る。


「チッ 使えん奴め」


どこかからそんな声が聞こえた気がしたが、気配は一瞬にして消えた。

やはり、誰かによって操られていたようだ。


落ち着いたルベルをメランが治療している。

ドラゴンのケガはドラゴン同士がよく知っている。


「……はッ!」


気を失っていたルベルが、目を覚ました。


「メランか。 久しぶりの再会がこんなことになってすまない。 俺も何が何だかさっぱりなんだ」


どうやら、今まで自分が何をしていたのか、全く覚えていないようだった。

完全に操られていたな。

というか、ドラゴンってそう簡単に操れる生き物なのか?


「ここの鉱石が欲しいのだろ? いくらでも持って行ってくれ。 俺は帰る」


ルベルは頭に、はてなマークを浮かべながら、空へ飛び立った。

何はともあれ、これでメラン専用の武具が作れるはずだ。

俺達は、ソンチョさんの家に戻ることにした。

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