第8話 王女パシリス

魔王討伐記念のパーティーもいよいよ終わりに近づいてきた。

かっこよかった王様は酔いつぶれてしまい、他の招待客もグデングデンになっている。

これが、お酒の恐ろしいところか!


お酒を飲んでいないカルディアとメランは、実は緊張していたのか疲れて眠っていた。

外の空気を吸いに、城のバルコニーへ行く。

そこには、とてつもない美貌で俺達を虜にしたパシリス王女がいた。


夜風がパーティーで火照った体を冷ましてくれる。

パシリス王女は、こういったパーティーが苦手なのか、一人外でジュースをちびちび飲んでいた。


「こんなところに一人で、どうかされましたか?」


俺はクールに言ったつもりだが、実際心臓はバクバクである。

この心音がパシリス王女に聞こえないか心配になるほどに。


「……ああ、勇者様ですか。 いえ、少し酔ってしまったものですから、涼んでいたのです」


そう言ったパシリス王女の顔は、ほのかに赤く染まっている。

お酒に強いイメージがあったのだが、そうでもなかったみたいで安心した。

ジュースに見えたのはお酒だったのか。

パシリス王女の年齢でもお酒が飲めるのだったら、俺も飲めばよかった。


「お隣、よろしいですか?」

「ええ。構いませんよ」


俺はパシリス王女の隣で夜空を眺める。

どうしよう!?

ここで何か気の利いた一言でも言えればいいのだが、こういった経験が無いため何も思いつかない!


「勇者様はどうしてこちらに?」

「ちょっと、酔い覚ましかな」

「ふふッ、私と同じですわね」


そう言ってほほ笑む彼女は、とても可愛らしい。

思わず、お酒なんて一滴も飲んでいないのに、酔い覚ましと言ってしまうくらいに。


しばらく、無言の時間が続く。

すると、彼女が俺の手を握ってくれた。

そして潤んだ瞳で見つめてくる。

こ、これは……誘われているのか!?

俺はとうとう大人の階段を上ってしまうのか?


「ユウさん見つけたー!」


突然現れたカルディアによって、その雰囲気は見事にぶち壊された。

人に見られたことが恥ずかしかったのか、パシリス王女は握っていた手をひっこめる。


「二人で何の話をしてたのー?」

「べ、別に大したことない話だ。 そうですよね?」


俺がパシリス王女に目線を向けると、王女はブンブンと頭を縦に振った。


「その態度が逆に怪しいですけど……」


カルディアは、俺とパシリス王女を交互に見る。

これ以上何か言われる前に、俺は話題を変える事にした。


「それより何の用だ?」

「そうだ! メイドさんが今日はもうお開きにしましょうって。    私達の部屋も、特別にお城に作ってくれるって!」

「おお! それはいいな!」


俺はパシリス王女にお辞儀をし、カルディアについていく。

パシリス王女は、俺に小さく手を振ってくれた。

もうッ! 王女様は何から何まで可愛すぎるだろ!!


メイドが俺たちのために作ってくれた部屋は、とんでもなく豪華だった。

ベッドはもちろん人数分あり、広々と使うことができる。

メランはカルディアに起こしてもらい、ここまで歩いてきた。

まだ眠たいのか、目をこすりながら俺たちの後をついてきていた。


「今日はどうだった?」

「食べたことのない料理ばっかりで、何を食べているのか分からなかったです」


カルディアはそう言った。

それは俺も同感だ。

日本で暮らしていた時は、たまに両親から海外の料理が送られてきたりするが、それと似たような雰囲気を感じた。


「我は王都なるものを、この肌で感じることができてよかったと思うぞ」


メランは王都全体のことを見て、感想を述べている。

さすがドラゴン族最強の黒龍、見るべき場所が違う。

ナイフやフォークの使い方も知っていたみたいだし、意外と人間達と仲がいいのかもしれない。


「ユウさん。 明日はどうされるのですか?」

「明日は二人の装備を買いに行こうと思ってるんだ。 王都でもなればそれなりの装備がそろっているはずだろう」

「我の装備も買ってくれるのか!?」


メランも自分の装備を買ってくれることに驚いている。


「メランはいくらドラゴン族最強だとしても、ずっとドラゴンの姿でいるわけじゃないだろ? だから、今の姿のままでも戦えるくらいの装備を持っててほしいんだ」


メランにそんな話をすると、急に涙ぐんだ。


「ユウ様…… そこまで我のことを考えてくれていただなんて…… 思わず感動した!」


メランが俺に抱きついてくる。

体こそ小さいが、力は黒龍そのまま。

さすがの俺も苦しい……


「そうと決まれば、今日は寝るぞ。 ベッドがこれまで以上にふかふかだから、死んだように眠れるかもしれないな」

「し、死なないですよね?」

「死なないよ。 あくまで、それくらい気持ちよく眠れるんじゃないかと思っただけだから」


さすがの冗談も、カルディアには通じなかったようだ。

そのまま、俺はベッドに横になり、目を閉じる。


ヤバイ、これはヤバイぞ。

ここまでとは思わなかった。

泥のように眠れるかもしれない。

そう思っているうちに、俺は眠りについていた。


そして翌朝。

俺はこれまで以上にいい気分で目が覚めた。

さすが王都、ベッドまで一級品だ。

もう一度横になると完全に起きれなくなりそうだったので、俺はさすがに起きる。


カルディアもメランもまだ眠っている。

まだ朝早いため、そこまで急いで起こすことはないだろうと俺は部屋を出る。

部屋を出ると、パシリス王女に出会った。

王女様も意外と早起きなのか?


「おはようございます」

「あら、お目覚めですか?」


俺が挨拶をすると、パシリス王女が微笑みながら応えてくれる。

昨日とは違って、今日はドレスではなく普通の服を着ているので少しだけ安心した。


「はい、とても快適なベッドでした」

「ふふっ、気に入って頂けたようで何よりですわ」


俺の言葉を聞いて、パシリス王女はとても嬉しそうな顔をする。

その顔を見て、この人は根っからの善人なんだと感じた。


「パシリス王女は、こんな時間に何をされているんですか?」

「私は朝食前に散歩をしているのです。 朝の空気に触れると、頭がよく冴える気がしますからね」


なるほど…… それは一理あるかもしれない。

確かに気持ちよく眠れたおかげで、頭がスッキリしている気がする。


「あぁそうだ、お腹が減ってらっしゃるなら一緒にいかがですか? ちょうど食堂に行くところなので……」

「よろしいのですか?」

「もちろんですよ」

「では、ご一緒させていただきます」


パシリス王女と一緒に行くことになった俺は、彼女の後ろについていくように歩き出す。

改めて近くで見ると、本当に綺麗な人だ。

腰まである長い髪に整った顔立ち、スタイルもいい。

こんな人と、二人きりで歩いていたら変な噂が立ちかねないが、今は周りに誰もいないので大丈夫だろう。


そんなことを考えているうちに食堂についたようだ。

扉を開けると中からは美味しそうな匂いが流れてくる。

どうやらもう料理はできているらしい。


席につくとすぐに料理が出てきた。

パンとスープだけの質素なものだったが、今まで食べたどの朝食よりも美味しい。


「お口に合いましたでしょうか?」


パシリス王女が心配そうに聞いてくる。


「はい!とても美味しいです!」

「それは良かったですわ」


それから俺たち二人は、他愛のない話をしながら食事をした。

パシリス王女はこの国の王女だが、あまり堅苦しい感じはなく話しやすかった。


朝食を食べ終わった後、パシリス王女は勉強をしないといけないらしく、その場で別れた。

やっぱり国を継ぐ者として、色んな事を知っておかなければいけないんだな。


浮ついた足取りで部屋に戻ると、カルディアとメランが着替えていた。

メランは特に気にしていないようだったが、カルディアは耳まで真っ赤だ。


「出てって!!」


追い出され、部屋の扉の前で三角座りをして待つ。

起きて二人とも着替えてるだなんて思わないじゃないか。


待っている間、俺は一人しりとりを始めた。

しばらく続けているうちに、ループに入ってしまったので俺は中断する。

そんな時、扉の中から入っていいよ、と声がかかった。


そう言われ、恐る恐る入る俺。

中ではちょっと怒ったカルディアと、それをなだめるメランがいた。


「入るときぐらいノックしてよね!」

「はい、失礼しました……」

「ま、まあ、これから装備を買いに行くのだろ? それなら早く行こうではないか」


メランが、怒るカルディアと謝る俺に言ってくる。

そうだ、今日は二人の装備を買いに行く約束だったじゃないか!

準備も整った俺達は城を後にし、武具屋に向かった。

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